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Love of eternity

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Pathos


1.

「まったく、とんでもない願い事をしてくれたものだ」
 最後の一筆が描き終わった途端にシャカは口を開いた。彼此準備をし始めて2時間。
 減らず口を閉じて、女官たちの為すがままに着飾られていくシャカを楽しげに眺めていた魔鈴はこの男にしてはよく辛抱したものだと仮面の下で口元を緩めた。
「そう云いながら、まんざらでもないって顔してたじゃないか、おシャカ様?」
 くくっと密かに笑いをたてる魔鈴にシャカは眉を顰めた。
「あれが喜ぶというのならば、仕方あるまい」
「ずっと、見たがっていたから…大喜びだろうな。デスマスクたちが上手くことを運んでくれてるだろう。極秘で進めるとはアテナも存外、お人が悪いとは思うが、願い事が叶った時のあいつの驚きと鼻の下を伸ばしっぱなしにするだろう顔が目に浮かぶよ」
「……だが、多くの者に迷惑をかけることとなった」
 髪飾りの位置が気に入らないのか、指先で女官に指示しながら、シャカは魔鈴に告げた。
「いいんだよ、それで。みんな心のどこかでアイオリアのために何かしたいって、思っていたんだろうから。ずっと長い間、アイオリアに直接的、間接的にでも謂れなき罪を着せていた者たちにとって、面と向かって詫びる機会なんざぁなかったろうから、何かしらしたくて堪らないんだろう。そういう者達にとっては今回がいい機会になったと思う」
 髪飾りの位置はどうだ?と魔鈴に合図をくれるシャカに頷きながら、魔鈴は思うところを遜色なく言った。
「……詫びたければきちんとアイオリアに謝罪するべきであろうが」
 僅かに表情を固くしたシャカに魔鈴はふっと気を和らげた。
「そんなことされたってアイオリアが困るのは目に見えているし、それで済むとは皆思ってないさ。でも、僅かばかりでもアイオリアのためになって、なおかつ喜んで貰えるというのなら、協力を惜しまない……それでいいんだって」
「腑に落ちぬ」
 左右に首を振り、髪飾りが顔にかからぬことをシャカは確かめると、むっすりと黙り込んだ。全体の出来を確かめるために大きな鏡へと女官に誘導されていくシャカに、魔鈴は大仰に溜息をついたのち叱咤する。
「ああ、もう!臍を曲げないどくれ!みんなアイオリアのために、それこそアンタの地獄の扱きに耐えて今日を迎えたんだからね?そのことを忘れないでおくれ。それに……アイオリアが一番楽しみにしているのは、シャカ、あんたの舞踊だってこと忘れんじゃないよ!」
 鏡の前に誘導されたシャカが自分の容姿に驚いていたところをバンッと思いっきり魔鈴に背中を叩かれて、益々眉を顰めた。
「しかし……これはやはり、やりすぎではないか?」
 鏡の中の自分の姿を指でさしながらシャカが抗議したとき、丁度シュラが入ってきた。
「おーい、シャカ、準備はできたのかってムウがーーー……」
 豪華な舞踊衣装に身を包んだシュラを見たシャカは、普段とはまた違ったきりりとした凄烈な印象に「ほう、なかなかのものだな」と呟いた。
「あ、あんた!丁度いいところに来たね?この男往生際が悪くってさ、あんたからもひとこと言ってやってくれ。アイオリアのために任務をまっとうしろって……おい、ちょっと聞いてるのかい?シュラ!」
 ぽかんと口を開け、目をぱちぱちと瞬かせているシュラに魔鈴は呆れた。
「どうしたのだ、シュラは……」
 怪訝そうにシュラを伺うシャカに若干魔鈴は眩暈を覚えた。無自覚にフェロモン垂れ流しているとは性質が悪過ぎる。
「あのさ、たぶん、これからあんたの姿を見た男連中は同じように固まると思うから覚悟しときな。まぁ、それも仕方ないことだ……ゴテゴテに着飾ってなおかつ、化粧まで施されたあんたは、あたしが言うのもおかしいが、絶世の美女だからね」
「―――――あまり喜ばしいことではないな」
 そんなシャカの呟きを無視して、呆けているシュラに魔鈴が喝を入れる。
「ちょっと!シュラ!!あんた、そんなんでシャカの相手務まるのかい!?しっかりしな。手元狂ってシャカに傷ひとつでもつけようもんなら、このあたしとアイオリアがあんたを血祭りにするよ?ま、そのまえにシャカがキレるだろうけどね」
「私を一体なんだと思っているんだ、おまえは」
 はぁと深い溜息をシャカはつくと、スッと背筋を張って向き直りシュラの前に立った。
「シュラ、そろそろ向かうぞ」
「え……あ、そ…そうだな。」
 カチコチになってシャカの横に並んで歩くシュラを見ながら、「ほんとうに大丈夫かねぇ」とぼそりと小さく魔鈴は呟いた。


作品名:Love of eternity 作家名:千珠