Love of eternity
空を見上げて
1.
空を見上げれば、瞬く夜空の星は降り注ぐのではないかと思われるほど、今宵の空は澄み渡っている。
すべての星を独り占めするようにごろりと草の上に寝転んだアイオリアはそっと瞳を閉じた。
美しく輝く星たちの囁きに耳を傾ける。
聞こえるはずのない星の声が、まるで聞こえてくるような気持ちになる。聞こえるはずのない兄の声が聞こえるような気がする。
『アイオリア、あれがおまえの星だ』
『あれが……おまえの星デネボラ、あれが乙女座のスピカ。綺麗だろう?真っ白な光だ。それであの橙色の光が、うしかい座のアークトゥルス。どうした?そんな顔をして。ハハハ。なんだって?3つの中で一番暗い?仕方ないさ。デネボラは2等星でスピカは1等星。アークトゥルスにいたっては0等星の輝きなのだから。え?シャカに負けたみたい?馬鹿だなぁ、おまえは。確かにあの子は強いところもあるが、弱い部分だってあるんだ。そんなとき、おまえが助けてやれよ?いいな―――』
そうやって悔しがる俺に、諭しながら微笑む兄の顔が浮かんだ。
「―――今もアイツに負けてるかもな。いや、体力なら負けてない!パワーだって負けてない!」
眉間にシワを寄せながら、ぐっと拳を握ったとき、星空から声が降ってきた。
「―――誰にかね?」
「……うっ」
その特徴のある声が誰かとわかってしまい、目を開けることもせず、即答できないでいる自分がちょっぴり情けなく思う。
こほんとワザとらしく咳を一つして、ちろりと片目を開けると上から覗き込んでいるシャカを見上げる。
「―――何故、ここにおまえがいるんだよ」
「まるで、ここは君のものだと言っているように聞こえるが?」
「……悪いか。ここは俺の思い出の場所なんだから」
勢いをつけて飛び上がり、スックと立ち上がる。そして、にやりとアイオリアは笑った。
(身長も俺のほうが勝ってる!)
16歳を過ぎてからもまだまだ伸びている自分にシャカは追いつけまい。拳二つ分ほど低い位置にあるシャカの閉じた目を勝ち誇ったように見た。
「……さっきから、何なのだ。勝っただの、負けただのと言って。それは君と私を比べてのことを言っているのかね?」
怒るというよりは呆れたようにシャカが呟いた。
「う!?おまえ、人の思考読んだのか?」
「読むまでもなく、そう感じたまでだ。くだらぬことで優越感に浸るな」
「うるさいな。用がなければさっさと行けって!」
「君に言われなくても―――そうする」
ほんの少し、シャカの表情が曇った気がした。しかし、それはほんの一瞬。くるりと背を向けて、スタスタと歩いていくシャカを怪訝な面持ちで眺めた。
―――何なんだ、一体。
そう思った瞬間、くるりとシャカが振り返った。
闇夜にもわかる、星の煌めきを宿した瞳がアイオリアを見つめていた。
ドクン。
アイオリアの胸が大きく跳ねる。
「アイオリア」
「―――なんだよ」
「いや、なんでもない」
そういうと、再び瞳を閉じたシャカはふっと薄い笑みを浮かべて、鮮やかに姿を消した。
「変なやつ」
今に始まったことではなかったが。今日のシャカはいつも以上に訳がわからなかった。
後になって、このとき何を思ってシャカが俺に会いに来たのか、普段は閉じている瞳をわざわざ開けて俺を見たのか、思い知らされることになる。
―――もしも、このとき、おまえの目的を知っていたなら。
俺はおまえを止めた。
止めることができたはずだ。
何も打ち明けず、たった一人で痛みを、苦しみを背負って。
打ち明けてさえくれていれば、おまえ一人に苦しみを背負わすことなど、決してさせなかったのに。
作品名:Love of eternity 作家名:千珠