Love of eternity
2.
「おい。今言ったことは本当なのか!?」
雑兵の襟首をぐいと力づくで締め上げると、その身体は宙に浮き上がり、足をばたつかせてもがく。恐怖に顔を引き攣らせた雑兵を凶暴な眼差しでアイオリアは睨みつけた。
今まさに獲物の喉元に喰らいつこうとしている獅子の瞳に、怯え青褪める雑兵以上に、アイオリアの顔色は喪失していた。
そんな……馬鹿な話があるか!
きっと聞き間違いだ。
いつもの性質の悪い噂だ…..。
ぐぐっと絞める力が強まり、とうとう雑兵は泡を吹き、白目を剥いた。
「アイオリア!止めなっ!死んじまうだろうがっ!」
割って入った女聖闘士に強かに頬を殴られ、危うく絞め殺しそうになった雑兵の襟首を手放す。どさりと足元に崩れ落ちた雑兵に女聖闘士は舌打ちしながら屈み込むと頚動脈の拍動を確かめた。
口の中に鉄の味がじんわりと広がってようやく、我に返ったアイオリアは、はっとしたようにマスクで覆われた女聖闘士を見る。
「殺す気だったのかい?アイオリア!?只でさえアンタの立場は厄介なんだ。自重しろっ!」
きつい口調で攻め立てるその声は、どこか遠くから聞こえてくるように思いながら、アイオリアは虚ろに問うた。
「すまん。魔鈴。だが、今奴が言ったことは本当なのか?シャカが……」
「―――本当だよ。教皇のご不興を買ったらしい。それで……あたしにはこれ以上言えない。行っておやりよ―――大切な仲間、なんだろ?」
『乙女座のシャカが教皇さまに盾突き、ご不興を買ったらしい』
『何でも獅子座に聖衣と宮を返せと言ったのだそうだ』
『烈火のごとくお怒りになられた教皇さまは乙女座にそれは壮絶な責苦を与えたとか……』
『いくら黄金聖闘士といえども、あのように聖闘士にはあるまじき少女のような細い身体では教皇さまの責苦に耐えられまいな……』
真っ白になった頭の中で雑兵たちが話していた言葉だけが、何度も何度も浮かんでは消える。
―――ああ、そんな……嘘だ。
アイツは自分以外の人の為にそんなことはしない。
俺のためにそんな馬鹿げたこと……アイツがするはずがない。
「―――アイオリア?」
「あいつは……処女宮にいるのか?」
乾いた声が絞り出されるようにして、ようやく喉から言葉が出たような気がした。
「いや。インドに戻されたと聞く。謹慎を言い渡されたようだ」
「そう、か。魔鈴すまないが―――」
「わかってるよ。上手く誤魔化しとくさ。早く……行きなって」
クイと顎をしゃくりあげるマスクの下は呆れたように笑っているのだろうか。いや、心底、心配しているような声音である。
ありがたい友の言葉に背中を押されて、決意する。
教皇に勝手な行動がバレれば、今度こそ黄金聖衣を、黄金聖闘士としての地位を、剥奪されるだろう。
―――それでも。
行かなければ。
シャカのもとに。
「頼む!」
そう言い残して、アイオリアはシャカのいるインドへと飛び立った。
作品名:Love of eternity 作家名:千珠