Love of eternity
3.
「―――何をしに来たのかね?」
青褪めながら、急ぎ向かったアイオリアを出迎えたのは拍子抜けするくらい、いつも通りにしか見えぬシャカであった。
「何しにって……おまえ、大丈夫なのか?」
「―――大丈夫、とは?……意味がわからぬ」
朽ちかけた戸に腕を組むようにして凭れかかり、飄々とした雰囲気はまったくいつもと変わらないシャカである。
ただ、少し違うのは一枚の袈裟だけではなく、色合いの濃いものを下に着て、全身を包み隠すようにしていることだけである。
「あれ??」
思わずアイオリアは腕を組み、指を顎に宛がうと天を仰ぐようにして考え込む。
―――まさか、俺は嵌められた?
いや、でもあの魔鈴がこんな性質の悪い冗談をするはずがない。しかし、シャカはいつも通りのようにしか見えない。
「どうなってるんだ??」
一人ぶつぶつと呟くアイオリアを眺めていたシャカは、どこか苛々としたようにアイオリアを帰そうとした。
「―――用がないようだな。なら、さっさと帰りたまえ。ここは君のようなものが来るところではない」
アイオリアの思い違いだとしても、それはあまりの言い草だろうと、ムッとしたように言い返す。
「そんな言い方ないだろうが!俺はおまえが教皇から酷い目に合わされたと……聞い…て……」
見る見るうちに顔色を失していくシャカの姿に言葉を失くす。
顔を背け、俯き、流れるような金色の糸で表情を隠したシャカは掠れたような声で呟いた。
「な……にを……聞い…た?」
シャカは組んでいた腕をいつしか己が身を守るかのように抱き、掠れの中に小さく震えを含んだ声へと変化した。震えているのは声だけでなく、まるで氷原の上にでもいるかのように、シャカは全身を震わせていた。
そして速いリズムで荒い息をつく。
常に乱れる事無く安定しているはずの彼の小宇宙が激しい揺らぎを見せた。
「シャカ……一体、どうし……」
その姿が痛々しくて腕を伸ばそうとすると、びくりと大きく怯えたように飛び退こうとしたシャカはバランスを崩し倒れそうになった。
「危ないっ!」
前に傾いだシャカの細い身体をかろうじて受け止めることにアイオリアは成功した。
しかし、安堵の息は漏れず、一瞬のうちにアイオリアの周りにある空気が無くなったのではないかと思えるほどの窒息感に襲われた。
布で覆われていたシャカの白い肌に、見てはならぬ残酷な仕打ちを目にした。アイオリアは全身の血が一気に下がり、そして一気に沸騰するのだということを初めて知った。
作品名:Love of eternity 作家名:千珠