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【Livly】誰も知らない物語

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帰ってきたルチルは、やけに落ち込んでいた。
島に漂ううっすらとした血の匂いには気づかない。
口数の少ないまま寝床にずっと横たわっていた。
サファイアはその後姿に問いかける。

「悩み事か?」

「うーん・・・」

ルチルは寝返りを打ち、振り返った。

「ぼくね、いらなかったみたいなの」

サファイアはうなづいた。

「それの何を気にする?」

リヴリーというのは変わっている。
どうやら、自分が誰かに必要とされているかが重要らしい。
サファイアからしたらそんなこと本当にどうでもいいことなのだが。

「ぼく、がんばったんだけど」

そしてまた、寝返り。
背中を向けて小さい声で言う。

「がんばれなかったんだぁ・・・」

サファイアはその丸まった背中に近づいた。
既に時は夜。月が昇り、二人を照らした。なのにルチルの顔がよく見えない。
落ち込んでいるということだけはわかったのだが。
サファイアはこういうとき、どうすればいいかわからなかったのだ。

「私も昔」

サファイアは口を開いた。ルチルが顔を上げる。

「もう覚えてなどいないが、・・・必要とされたかったときもあったかもしれない」

サファイアが自分から何かを話すことはほとんどなかった。
ルチルのどうでもいい馬鹿げた言葉に、鋭い指摘をすることは度々あったが。
しかしサファイアから何故かその話が出た。
ルチルがサファイアの名を思いついたときのように、気づかぬうちに思い出していたことだった。

「私は気づいたら、このような姿をしていた。自分が醜いと思ったことはないが、お前たちリヴリーから見たらそう見えるらしいな」

ルチルは違うと言うようにぶんぶん首を振る。しかし、彼女は続ける。

「気づいたら狩りをしていた。本能の赴くまま、生き物を襲った。そういう生き方だけでよかった。
 何かを考える必要もない。だがお前と出会って、餌を与えられた。
 私はある意味、生き物として暇が与えられたようなものだ。色々なことを考える時間ができた。」

二人の真上に浮かぶ星が一つ流れた。
それにも気づかず、サファイアは言う。

「愚かなことを考えるものだが、私は時々、自分がリヴリーだったのではないかと思うときがある」

「・・・どうして・・・?」

「わからない。遠い遠い昔のことだが、私は孤独だった。
 いつも何かを憎んで生きていた気がする。そして気づいたら魔物になっていた。何故・・・そんなことを考えてしまうのか、わからない。」

モンスターは、リヴリーから生まれる。
ルチルの頭に、そんな考えがよぎった。

「だったらさっ、もし、サファイアがリヴリーだったらさ、また戻れるかな!」

もしサファイアがリヴリーだったら、こうやって隠れるように二人で生きていかなくても良いかもしれない。
それはとても素敵なことだと思った。
はしゃぐルチルに、青いジョロウグモははっきりと言った。

「そんなこと、できるわけないだろう」

それでもルチルは方法を探してみせると言って聞かなかった。

「お前は変わっている。どうしてお前は私を助けた?」

「理由なんてないよ」

その返事に、サファイアは訝しげな表情を見せる。慌ててルチルは言葉を加えた。

「だって、本当なんだもん、サファイアが怪我してるから・・・それに、ともだちになってくれそうな気がしたから・・・サファイアが、きれいだったから・・・?」

理由を並べても、やはりサファイアは納得がいかないようだった。
やがてルチルは素直に「わかんない」と笑い、サファイアも笑った。
時々ルチルの奇麗事を信じてみたくなるときもあった。
いつか自分がリヴリーになれたら、それも悪くない気がするのだ。