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いい夫婦の日『臨帝の場合』

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11月22日セットというのを2人前頼むと板前のデニスは微妙な顔をしたが「一つで二人分だ」と言われた。
「じゃあそれで」と返しながら微妙な雰囲気。
なんなのかと思いながら口に出してたずねることはしない。
今は寿司屋をやってはいても視線の鋭さは殺し屋と言われて納得できるような相手だ。
静雄と違っていきなり力任せに切れることがなくても勝手に追加の注文が出てきてしまう。
寿司は下に円盤でもついているのか回りながら出てきた。
子供騙しだ。出す瞬間にサイモンやデニスがくるっとターンしてくれるものだと期待していた臨也は肩透かしの気分になった。寿司は回転しているので回転寿司としては間違いではないかもしれない。

「いただきます」
「どーぞ」

とくに会話するでもなく黙々と食べる二人。
寿司を食べながらする会話を臨也は思いつけないでいた。
帝人の顔を見た時は言うことが次から次へと浮かんでいたというのに今では頭の中は真っ白だ。
寿司の味さえ分からない、などと臨也の心の声が聞こえたのかデニスが話しかけてきた。

「知らなかったが、お前達……付き合ってたのか」

サイモンと違ってあまり喋るほうではない寡黙な板前がよりにもよって何を言い出すのかと目を見開けば帝人がごそごそとチラシを出して見ていた。
露西亜寿司にばかり目がいっていたが11月22日セットの説明が書かれていた。
『夫婦(カップル可)限定スペシャルメニュー。夫婦(カップル可)は半額』とあった。
つまり夫婦以外は倍額。

(ぼったくりじゃん)

二人前の値段として妥当な金額のセットだったが倍だとすると気になる値段になる。
小さく『夫婦(カップル)に見えるようにすること。※男女問わない』とあった。
男女二組ではいっても夫婦じゃないと因縁をつけられて倍の金額を払わされるのか。

(払えないわけじゃないけど)

帝人が小さくなっていた。
気付いていなかったのだろう。

「サイモンさんに園原さんと一緒にって言われたのは……そういうことだったんですね」
「君達付き合ってるの?」
「え? そ、そんな……まだ……ですけど」

顔を赤くして俯く帝人に臨也は面白くない。

「あれー? みかプーにいざいざ? なんで、シズちゃんは? 紀田君は?」
「狩沢さん、ストップ! ストップっすよ」

入店早々にカウンターにいる臨也と帝人を見つけて声を上げる狩沢を遊馬崎は止める。
カウンター席じゃなく奥の座敷に行くべきだったと思いながら隣に腰掛けられた。
席は臨也が一番奥でその隣に帝人、狩沢、遊馬崎となている。
帝人を奥に座らせれば良かった。

「11月22日セットで! 私達1日カップリングだから」
「男の純情を弄ばれます」

何を言っているのか分からない二人だ。

「え、お付き合い……して……え?」
「サイモンに私が三人をハーレムにしてる設定として多夫一妻ならいいかって聞いたらダメだって言うから三人にジャンケンしてもらって」
「俺が勝ったんで俺達の夕飯は寿司っす」
「ドタチンは渡草っちと付き合ってる設定でくればいいっていってるのに『そこまでして寿司は食わねえ』って」
「そうだろうね。何が楽しくて男と付き合ってるふりしないといけないんだ」

吐き捨てるような臨也に帝人の肩が跳ねる。

「ゆまっち、ごめん。私みかプーと付き合うことにするわ」
「いきなりの破局。マジっすか」
「お会計はお金持ちの正直者のお兄さんがしてくれるから」

少し冷たい狩沢の瞳は怒気が含まれているのだろう。
挑発するように「みかプー席移動しよう」と帝人を臨也の隣から動かそうとする。

「これ一つで二人前なんだけど?」
「ゆまっちとラブラブ食べればいいじゃない」
「なんで、そんなことしないと」
「みかプーと付き合ってないなら別に相手が誰でもお金変わらないんだから構わないでしょ」
「狩沢さん、ちょっと無茶苦茶っすよ。折原さんを煽っちゃダメっす」

遊馬崎にたしなめられるも狩沢は納得いかないような顔。

「狩沢さん、ありがとうございます。気付いてなかった僕が悪いので、その」
「なに、謝ろうとしてるの? これ、包んで。外で食べるから」

万札を置く臨也に「足りねえよ」と声がかかる。
チラシをよくよく見ると『夫婦(カップル)じゃないのがバレたら罰金ヨ』とあった。

「罰金で値段は10倍だ」
(ぼったくり……!)

自分がこんなことに引っ掛かるとは思わなかった。
臨也は出ていく金ではなく騙されたこと自体に腹が立った。
財布の中の手持ちを見て臨也は足の力が抜けかけた。
あまり現金を持ち歩く主義ではない。
札束を鞄に詰めて放っておいても気にしないが財布が厚いのは動きにくいので好きではなかった。

「お会計はこれで」

万札が臨也が置いた金の上に重ねられる。
小さく「家賃をまとめて渡そうとしてお金おろしていまして」と告げられた。
助かったのだが電話で誰かに金を持ってこさせることだって臨也には出来た。
礼を言う前に臨也は足は出口に向かう。
包んで貰った食べかけの寿司は帝人が受取ったようだ。
会話だけは耳に入ってくる。



何もかもが癪だったが「じゃあね」と帰るのはもっと嫌な気分だ。
そろそろ会いたくない知り合いと顔を合わせることになるかもしれない時間帯。

(潮時だよな)

わかっていても動き出せない。
原因を振り返る。

「臨也さん、食べませんか?」

子供のような意地を張りたくなる気持ちがとけていく。
勝手に頷いて気付けば帝人の家にいた。
あったかい緑茶は途中で買った。

(……ここには誰も来ないか)

寒かったが悪くはない。
何をしに池袋に来たのか臨也は忘れて残った寿司を食べることにした。

(こういうのも悪くないかな)

お茶は入れたてがいいと思いながら臨也は「美味しいね」と微笑んだ。
帝人も笑っていたので帰ると言わないで良かったと改めて思った。

(どういうお金の返し方が一番いいかな?)

次に会う時のことを考えるのは楽しい。
恋人になるにはまだ先で友人というには少しだけ近い距離。