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近距離恋愛

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円く整った目玉焼きの黄身にフォークを刺すと、とろりと半熟の黄身が流れ出てきた。こんがりと焼けたパンをちぎって薄くバターを塗り、その黄身をすくって口に運ぶと、さくさくとしたパンの食感とバターと半熟の黄身の風味が広がっていく。目玉焼きは半熟の方が好きだと言ったアーサーのために、菊は必ず半熟の目玉焼きを用意する。

「うん。おいしい」
「ありがとうございます。最近ようやくアーサーさんの好みがわかってきました」

菊はそう言うけれど、ほどよい固さととろける黄身の半熟具合が非の打ち所がないと言っていいほど自分好みに作られていて、この目玉焼きを作れるのは菊しかいないとアーサーは思っている。パンを飲み込みカップの紅茶を一口飲めば、こちらも自分好みの味と香りが広がっていた。菊は紅茶好きのアーサーの好みの茶葉や蒸らし時間もきちんと覚えているのだった。

作品名:近距離恋愛 作家名:ヤト*