近距離恋愛
俺はそのジャンルの読書好きということをあまり周りに知られたくなかったため、時間の取れる日はひとりの大人しい図書委員(一年のときの俺のクラスの図書委員で、名前はティノ・ヴァイナマイネンという)がいる日の下校時刻前に訪れては本を借り、いつも早朝に返却ポストにいれていた。彼は俺の読書好きについて知ってもなお秘密にしてくれていた。まぁ、俺は当時生徒会長というポストに居たため、その分委員会の予算については若干の熨斗をつけてやっていたが、それについてはここでは触れないことにする。
その日もティノが休み時間に俺のクラスまで図書委員長として相談に来たついでに、親切なことに「あのシリーズの新刊今日の放課後に入るので、誰も借りなければたぶんあると思いますよ」と知らせてくれた。俺はその頃そのシリーズに夢中になっていたので、今度の巻ではどう話が進むのだろうと楽しみにしながら放課後を待った。内心は顔がにやけそうでそわそわしていたが、表面上はいつも通りの平静を保っていた(つもりだった)。
あとから聞いた話だと、フランシスの髭野郎にはもろばれだったらしいが。くそ。むかつく。
そうしてその日の仕事を終えて足早と下校三十分前の閑散とした(まあ、テスト期間以外は下校間際でなくてもこんな感じだが)図書室に入ると新刊コーナーへと足を運ぶ。大抵新刊はここに数日間並ぶ。ところが目的の本が、ない。慌てて貸し出しカウンターのティノのところに詰め寄ると、彼は何度かキーボードを叩き申し訳なさそうに眉尻を下げて「すみません、借りられていますね…。一冊しか入っていないので、申し訳ないんですが」と頭を下げた。彼が悪いわけでは決してないのだが、俺は凹みながら予約だけいれてもらい図書室を後にした。
残念だが仕方ないよな、とノロノロと昇降口へ足を向けると窓からはさらさらとした音が鳴っている。雨だ。