Hepatica
4.
不慣れな行為は多分にシャカが負担を負う事となったが、シャカは身体を動かすたびに軋む痛みすら、僅かに不自由さを感じるくらいで、少しも辛いとは思わなかった。
それよりもぽっかりと空いていた空虚な穴が塞がったような満たされた想いに幸福感さえ感じていたのだが。
目覚めたシャカが目にしたムウの姿はシャカとはどうやら事情が違って、ひどく苦しげであった。
「―――夢、なのだと思ったけれども、夢ではなかったのですね」
夢であって欲しかった…そう言わんばかりに身体を起こしたムウは消え入りそうな細い声で唸ったのだ。
項垂れ、長い髪でその表情を覆い隠していたけれども、傷つき、苦悶に満ちた表情をしているのだろうとシャカは思う。
なぜ――――?
「君は後悔しているのかね?」
肯定の言葉は聞きたくはないと思いながらも、シャカはムウに尋ねた。ムウは相変わらず俯いたままで、その姿はシャカを拒絶しているようにも思えた。行為の最中では恐ろしいほどに熱く、激しく求めて来たというのに。
今はその片鱗さえもみえないほど、ひどく冷めた空気に満たされているのが、シャカにすれば悲しかった。だから、それ以上の言葉でムウから打撃を与えられる前にシャカは自らを戒めるように告げるしかなかった。
「私の気まぐれに付き合わせて悪かった。すまない、君を惑わすような事をして。このことはもう、忘れてくれ―――」
きみが望むのならば今後二度と此処にも訪ねない、とシャカは言葉を継ぎ足した。するとムウが弾かれたように顔を上げてシャカを見た。睨むような、悲しむような、傷ついたような…….複雑な表情で。そして辛そうに顔を背けたのだった。
「どうして、あなたは―――いいえ、もういいです。シャカ、あなたはもうしばらくお休みください。私は頼まれ事を仕上げてきます。出来上がり次第、声をおかけしますから……それまでゆっくりと休まれるといいでしょう」
そう硬い声で告げたムウは身繕いしたあと、一度も振り向きもせずに作業場へと向かっていった。
(私は間違ったのか……)
残されたシャカは暖炉へと目を向け、灰に埋もれた小さな炎をぼんやりと眺め、億劫そうに瞼を閉じる。伸ばした指を曲げる事も面倒に思えるほど、ドッと疲労感が押し寄せて来た。
ムウは酷く傷ついた様子だった。
身を守るために放った自らの言葉が刃となってムウを深く傷つけたのだとしたら……と今更ながらにシャカは後悔の念に捕らわれた。それが身体へと波及したかのように、全身が鉛のように重く感じる有様だ。
「―――っつ」
起き上がろうとしたその時、発生した痛みにシャカは顔を歪めた。もう気力さえ萎えて、起きるのを諦めたシャカは横たわったまま両腕を顔の上に置くと、滲み出た滴を受け止めた。