エンジェル参戦
そんなわけで、雪男は押しつけられた役目をきっちりと努めるためにシュラを迎えに来た。
シュラは雪男の頭のてっぺんから足まで眺めおろし、からかうような眼差しを向ける。
「雪男、おまえ、そんなカッコしてると」
「サラリーマンみたいだって言いたいんでしょう」
雪男がシュラの台詞の先を奪うように言った。
にゃはっはっはっとシュラは笑う。
「アタリ」
すると、雪男はハァとため息をついた。
雪男はスーツを着ている。
その姿は学生には見えない。
でも。
サラリーマンみたいだとからかうつもりだったのはアタリだが、シュラの本当の感想は別である。
体格が良く大人びた雰囲気を持つ雪男に、いま着ているスーツはよく似合っている。
色気のようなものさえ、ある。
結構カッコいいぞ、おまえ。
そう思った。
もちろん、そんなことを言う気はないが。
その代わりに別のことを明るく告げる。
「じゃあ、行くか」
「そうですね」
そして、シュラは雪男とともにヨハン・シュトラウス邸に向かった。
シュラは廊下を歩いていた。
ヨハン・シュトラウス邸の廊下だ。
邸内の大広間で開かれているアーサーの聖騎士就任祝いのパーティーを抜けだして、トイレに行った帰りである。
祝賀会はメフィストがかなり力を入れたらしく華やかだ。
急に開催されることが決まったのだが、呼びかけに応じて多くの祓魔師が参加している。
しかし、パーティーが始まってから時間が結構たっている。
メインとなるようなこともすべて終わっただろう。
シャンパンやワインなど酒もたくさん呑んだ。
大広間にもどったら雪男に声を掛けて一緒に帰ろうと思いつつ、ほろ酔いのシュラは気分良く廊下を歩く。
けれども、大広間へと続く先がふさがれた。
シュラが進んでいた廊下と交差している廊下から、すっとだれかが現れたのだ。
「シュラ」
現れたのは、パーティーの主役だ。
アーサーが笑顔でシュラの正面に立っている。
いつもの祓魔師としての格好ではない。
だが、本日の主役であり本日の出席者の頂点に立つ者としてふさわしい格好をしている。
生地や仕立ての良さが眼をひく、高そうな礼服だ。
それをアーサーはあっさりと着こなしている。
「なんだ?」
立ち止まったシュラは問いかけた。
自分がもどってくるのをアーサーが待っていたように感じた。
だとしたら、なんの用だろうか。
「話がある」
そう返事すると、アーサーはすっと身体の向きを変えて歩きだした。
ついてこいということだろうと判断して、シュラも歩きだす。
話。
アーサーはシュラの直属の上司であるので、仕事の話だろう。
ヴァチカン本部、あるいは、この日本支部で、なにか良くないことが起きているのだろうか。
それとも、アーサーはサタンの炎を受け継いだ燐のことを快く思っていないようなので、燐を排除するためになにか企んでいるのだろうか。
そんなふうに考えているうちに酔いはさめた。
悪い話でなければいいのだが。
心配しつつも、それを顔には出さないようにして、シュラはアーサーが入っていった部屋に足を踏み入れた。