エンジェル参戦
部屋に先客はおらず、暗い。
アーサーが部屋の灯りをつけた。
だから、シュラはふたたび問う。
「話って、なんだ?」
悪い話であっても、さっさと聞いてしまいたい。
しかし、アーサーは答えなかった。
口を閉ざしたまま、じっとシュラを見ている。
その身体が、ふと、動いた。
距離を詰めてくる。
妙だな、とシュラは思う。
だが、アーサーは敵ではないはずである。
今は燐を守らなければならないという状況ではないので、直属の上司と戦う理由はない。逃げる理由もない。
けれども、近くなりすぎだ。
「アーサー?」
さすがにシュラは距離を空けようとした。
しかし、そのまえに。
「っ!」
アーサーに捕まった。
強い力。
押される。
背中が硬い物とぶつかり、痛みを感じた。
壁だ。
強い力で壁に押さえつけられる。
わけがわからない。
「なに……!」
なにをするんだ、と怒鳴りたかった。
けれども、途中で言えなくなった。
口をふさがれていた。
ふさいでいるのは、アーサーの唇だ。
キスされている。
挨拶とはとても思えない、荒々しいキス。
そんなものをされる理由はないので、シュラは抵抗する。
だが、魔剣を手にしているのならともかくとして、単純な力の勝負なら、シュラはアーサーに負ける。それも完敗だ。
ようやくアーサーが少し離れた。
しかし、シュラは壁に押さえつけられたままである。
シュラはアーサーをにらみつけた。
怒鳴る。
「サカってんのなら、よそを当たれ!」
自分とアーサーは上下関係にあって自分は下の立場にいるが、性的欲求をぶつけられたくない。
アーサーは一切ひるまなかった。
シュラを押さえつけている力は少しもゆるまなかった。
その口が開かれる。
「シュラ」
名を呼び、さらにアーサーは続ける。
「オレはおまえが好きだ」
シュラは眼を見張った。
なにをバカなことを言っているのだろうか。
「ふざけんな!」
「ふざけてなんかいない」
アーサーは強く深い声で否定した。
「オレは本気だ」
その眼差しは真剣そのものだ。
シュラは雪男が言ったことを思い出した。
アーサーさんはシュラさんが好きなんじゃないですか?
まさか、そんなこと、絶対にありえない。
そう思っていたのに。