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投げられた指輪

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飛んだ場所にあったのは普通の民家よりも大きく上品な家だった。
家を取り囲むように焼いたレンガのブロックが重ねられ、そのブロックに絡みつくように薔薇が鮮やか咲いていた。
きっとこの家の主人が薔薇が好きだったのだろう。
しかし、それよりもなによりも雑草が伸び放題になっており、庭は荒れ放題になっていた。
この家の主人はもう長らく不在なようだ。
薔薇の樹の根元にその井戸はあった。
少女は先ほどいた場所から井戸の前へと飛ばされたのだ。
白い石が詰まれた美しい井戸。
でも、その井戸は水が汲めないように封印がなされていた。

ふと、少女はなぜだろうと首をかしげた。
少女を自分の腕からおろした青年は、その白い井戸へと近づいた。
そして目を伏せると、深い溜め息をついた。
「どうやら遅かったようです。」
少女は青年に会ったかと思うと、いきなり別の場所へと連れられてきた。
その上、今の青年は肩を落とし、がっかりしているようだった。
少女はその後ろ姿に妙に不安になった。
「いきなりこんなところに連れてきて、どういうことなの?ゼロス。
 説明してくれる?」
少女は顔をしかめた。
そういえば、この青年はあまり信用できなかったやつではなかったのかと思い出した。
「ねえ。」
青年は少女に向き直った。
「そうですね。
こんなところにあなたを連れてきておいて、なんの説明もしないなんて。
 あなたも納得できないでしょうね。」
と、言った。
そして、寂しげに笑うと。
青年は厳かに少女に告げた。
「リナさん。
どうやらあなたは、もうすでに死んでいるようです。」
少女は青年の突然すぎる言葉に驚いた表情を見せ、口に手を当てた。
「いやだ、何言ってるの?」

しかし、青年は少女のそんな様子に構わずに続けた。
青年の話によると少女がいた場所は『死に行くものたちが最後へたどり着く場所への中間地点』なのだそうだ。
少女は青年の語る話に耳を傾けていた。
「そして、あの場所にいる者は、まさに臨終の場面に遭遇しているものかーーーー・・・
もしくは、この世への未練が多すぎて、あの場所へとどまり続け、亡者になり変わろうとしてい者かのどちらかなのです。」
嫌な予感がして、少女は息を飲んだ。
「ですから、僕はこの世であなたの体を探した。
 あなたはきっと僕から買った魔紅玉をまだ身に着けているでしょうと
思って。
 そうしてその力を読んだら、この場所へとたどり着いた。」
「で、あんたの言うとおりだったらあたしの身体は?」
少女は青年の後ろにある井戸を見て、目を背けた。
もう、青年が何を言わんとしているかわかっていた。
そして、青年はこくりと頷いた。
「そうです。あなたの体がはこの封印された井戸の中に眠っているのです。
生憎、この井戸の中からあなたの気配はしないのです。」
青年は少女をじっと見つめると、少女に近づいて行き、右肩にそっと触れた。
「つまり、あなたは僕が先ほど示した後者のほうの人なのです。」
自分の正体を知り、少女は思わず自分の体を抱きしめた。
「・・・いやよ!あたし・・・化け物になんてなりたくない!」
少女の口から悲鳴じみた声が漏れた。
「助けて!お願い!ゼロス!」
少女は青年に縋り付いた。

青年は薄く目を開け、しばらくたたずんだ。
「僕だって、あなたをこの世の亡者にしたくないのです。」
少女は青年の喉の奥より搾り出した声が聞こえて、はたと顔をあげた。
「リナさん。
 あなたはこの世界に何の心残りがあるというんです?」
作品名:投げられた指輪 作家名:ワルス虎