投げられた指輪
「それが、思い出せないのよ・・・」
「ああ!頭が痛い!」
「この家・・・この井戸・・・」
「どうして・・・!」
少女は痛む頭を抑えていた。
思い出そう思い出そうとするほど、頭痛がひどくなった。
まるで、それは一種の呪いのようだ。
「この問題は、あなたの死に直接関係があることのようです。
あなたにとって忘れてしまい程に辛く、亡者に成りかけるほど心残りのある出来事。」
青年はそんな少女の様子を淡々と見続けていた。
しかし、彼は錫杖を握る手を強め決心した。
「僕があなたの記憶を探ります。」
そして、周りを見渡し、その家にうっそうと茂っている薔薇の樹を見た。
井戸に寄り添うように生えている鮮やかな花をつける樹。
それは、少女の体を贄に美しく咲いているようだった。
「あなたが死ぬ前に何があったのか。
どうして、あなたはこの井戸の中に落とされなければならなかったのか。
きっと、この家全体を覆っているこの樹が僕たちに教えてくれるに違いない。」
魔族の青年は目を閉じると、錫杖を右手に握り締め、何か早口に呪文を唱えた。
そして、次の瞬間その錫杖を地面に突くと、
少女の目の前はガラスのように砕け散った。