投げられた指輪
その部屋は、栗色の少女のセンスで魔法ショップのような飾り付けをされていた。
シックのワインレッドの壁紙には、この世界の大きな地図が飾ってある。
他にも青い大粒の宝石の入った短剣や年季の入った小型の銃などが飾ってあった。
棚にはなぞの材料が瓶詰めにされ、整然と並び、
中腰のアンティークの飾り棚には色とりどりの宝石や奇妙な呪文が刻印されてある小石が置いてある。
外に出られるスライド式の扉はきれいなガラス張りになっており、
柔らかな光を受け、美しい季節の外の庭が見えた。
「まぁ!すごい客間なんですね!」
皮のソファーの上の黒髪の少女は辺りをきょろきょろと見渡し、感嘆の声をあげた。
「まぁね。自分の研究室にこんなのがごろごろしててさ、入りきらなくなちゃって、見栄えがいいものをここに置いてあるのよ。」
少女はそんな黒髪の女性の様子に苦笑し、テーブルに紅茶を置く。
さ、どうぞ。と。
紅茶のカップを手に取り、
「さすがは、超一流の魔道士ですわ!
一目見て、どの品も一目見て一品で、あることがわかりますわ!素敵!」
と、言った。
栗色の髪の少女はそんな様子を見て、
「ところで、よくうちがわかったわね。シルフィール。
あたしたちここで暮らしているとか、ほとんど誰にも知らせてなかったのに。」
少女もその対のソファーに座る。
黒髪の少女は一気に紅茶を飲み干すと、自ら、自分のカップへと紅茶を汲む。
そして、少女ににっこりと笑うと。
「うわさで聞いたんですわ。
ガウリイ様とリナさんがご結婚なさったこと。
リナさんの売る商品の出所を知れば、リナさんは有名人ですからすぐにわかるんですのよ!」
と、言った。
「ガウリイ様もリナさんも人が悪いですわ。
ご結婚なさったこと、わたくしに教えてくださらないなんて!」
その言葉に少女は苦笑した。
ま、確かに、ほとんど誰にも結婚したことは告げなかったけれど。
(シルフィールにうわさで伝わるほど、そんなにあたしって有名人だったのかしら?あはは・・・)
と、内心で思い、人差し指で自分のほほをぽりぽりと掻いた。
「リナさん。ところで、ガウリイ様は?」
黒髪の少女はちらりと少女を見る。
「ああ・・・ガウリイ。
ガウリイね。そうよね。
ごめんなさい。」
そして、申し訳なさそうに。
「せっかく、遠いところから来てくれたシルフィールには申し訳ないんだけど、ガウリイは外に出ちゃってるの。」
「いいえ、そんな!わたくしが悪いんです!突然リナさんのところに押しかけて来て。
なんの連絡もなしに。」
そして、カップを置いた。
「実は、わたくし。先週リナさんとガウリイ様がご結婚なさったことを知ったのですわ。
あたくし、いても立ってもいられなくなってしまって。
こうして、ここまでお祝いに来てしまったわけですわ。
どうして、わたくしを結婚式呼んでくださらなかったんですの!」
黒髪の少女はちょっと責めているかのような口ぶりで、言った。
「そんなわけじゃなかったんだけど、結婚式は本当に小さなものだったの。
双方の家族だけが来たのよ。
あたしたちあんまり盛大な式って慣れなくって。
ほら、あたしたちずっと旅生活がながかったじゃない?」
そして、少女は照れて、えへへと笑った。
「ですが!見たかったですわ!わたくし。」
女性はその小さな品のある唇を子供のようにとがらせた。
「落ち着いたら、みんなに手紙を書こうと思ってたのよ?」
「まぁ!そうだったんですの!
落ち着いたらですわね?こんな素敵なお庭をお持ちで?
だから、わたくしに知らせるのが遅くなってしまったんですわね!
みなさんこのめでたいことを知ったら、どんなに怒るか・・・
まったく!」
そして、美しい少女の庭を見て、黒髪の女性は溜め息をついた。
呆れているようだ。
そんな様子に、少女は、ただひたすら苦笑していた。
そして、黒髪の女性を上目遣いで見ると、言いにくそうに、
「ま、確かに、みんなに知らせなかったのは悪かったわ。
結婚したことぐらい伝えるべきね。あはは。
・・・
でもね、シルフィール。
正直に言うとね、あんたにはちょっとこの事を伝えにくいな~と、思っていたわ。」
そして、栗色の髪の少女も紅茶を飲み干すと、ソーサーにカップを置いた。
「だって、あんた。
ガウリイのこと好きだったじゃない・・・?」
すると、黒髪の女性は、ほんの少しだけ寂しげに微笑んで、
「私は、先に進んだほうがいいとわたくしは思うのですよ。」
きっぱりと言った。
そして、黒髪の少女はおもむろに立ち上がり、庭へと続く、大きなガラス扉へと歩み寄った。
外の庭は、5月のさわやかな陽光に包まれている。
「わたくしのサイラーグもだいぶ復興してまいりました。
人々も活気に満ちて、そこいら中に笑顔が見ることができます。
その移り行く様を見て、時間が経ったのですわ。
リナさん。」
そして、黒髪の少女のほうを振り返る。
「人は後ろ向きばかりには生きてはいられませんわ。
わたくし、みなさまやガウリイ様の幸せを切に祈っておりますの。
みなさまが幸せでしたら、何も言うことはないんですのよ!」
「それ以上の幸せを望むのでしたら、それは欲張りですわ。」
そして、黒髪の少女は頷くと微笑んだ。
「もちろん!
あたくし、リナさんがうらやましいですわよ!
あんな素敵な男性と結婚なさったんですもん!
絶対に!!お幸せになっていただいていないと、わたくし悔やんでも悔やみきれませんわよ!」
にっこり。
彼女は強い女性だった。
栗色の少女は、女性のたくましさを知った。
黒髪の少女はソファーの横に置いていた自分の持ってきた大きな荷物の前でかがむと、その中をごそごそとまさぐった。
そして、両手に黒いボトルを持つと、そのボトルを振り、言った。
「わたくし、サイラーグから祝い酒をたくさん持ってきたんですのよ。
復興酒ですわ!
それと、シャンパン入りのチョコレートをたくさん。」
片目をつぶる。
「今夜は女子会ですわ!!」
栗色の髪の少女は女性が持つお酒に目を輝かせ、飲み干したカップを爪で弾いた。