投げられた指輪
もう、日が傾き、夜が訪れようとしていた。
「うまーーーい!!」
「リナさん!いいのみっぷりですわ!!
とても、女性のものとは思えない肝臓をお持ちですわ!!」
グラスの中に入った、黄金色の液体を飲み干すたびに、黒髪の女性は声を上げた。
「なによ!それ!嫌味ね!
そういうなら、シルフィール。あんただってそうじゃない!
あんたののみっぷりー!あはは!
自棄酒なの~~!?
あんたが持ってきたお酒なんか、あっという間に空けちゃって!
今度はあたしんちの貯蔵庫のお酒までほとんど空にしちゃったじゃなーい!
もっと、持ってこなきゃだめじゃない~~!」
もう、こちらはすっかり出来上がって、顔が据わっている。
「まあ!まあ!まあ!まあ!
リナさんはわたくしだけのせいだとおっしゃるの!?」
その客間は酒の空瓶で埋め尽くされている。
「これらの瓶はリナさんがほとんど空けられたんですよ!
と、わたくしもほんの少々ですわ。(小さい声)
この原因は女子会のせいですわ!!」
そして、ガッツポーズを作り、
「ええ!絶対にそうですわ!
これが、女子会の魔力!!
恐ろしいですわ!」
こちらはこちらで出来上がっているようだ。
「何言ってんのよ~!
振られ女の自棄酒でしょう~~!あはは」
「ひどいですわーーー!!
元はといえばあなたが原因なんですのよーーー!
きィーーーーー!
わたくしは世間でいうといい女なのですわーーーーーーー!!!
間違いありませんのにーーーーーーーー!!!」
酔いが回っているせいだろうか、黒髪の少女はつばを飛ばしながらすごい剣幕で捲くし立てた。
「あははーー!いいぞーーー!のめのめーーーー!」
もう、この部屋ははちゃめちゃだ。
「あ、もう・・・お酒ないわ・・・。」
黒髪の女性にお酒をつごうとしていた、少女はもうお酒が入っていないのに気がつき、その中を覗き込んだ。
覗き込んでも入ってないものは入っているはずがない。
それを見ていた、黒髪の少女は。
うふふと笑った。
「リナさん。
実は、わたくしはとっておきのお酒を持ってきたんですのよ。」
「ええーーー!何よそれーー!!まだあるっていうの!?」
少女は身を乗り出してきた。
「ええ。本当は、ガウリイ様にお渡しする予定でした。」
「ええ!ガウリイに!?そんなのもったいないわよー!
あんたのお酒は最高よ!!」
黒髪の少女は自分の荷物の底から、とって置きの一本を取り出していた。
少し、ラベルが汚れている。
瓶にも少し傷が入っている。
その、ボトルを黒髪の女性はいとおしげに撫でる。
「ええ。もちろん。わたくしがもってきたサイラーグのお酒は最高ですわ。
ですが・・・これは・・・この一本はね。特別なんですのよ。」
「うんうん。うんうん!あんたを信じるわ!」
少女はうれしそうだ。
「このお酒は、サイラーグが滅びる前に作られたお酒。
かろうじて、地中より発見されましたの。
きっと、そこに酒倉があったのですわ。
滅びる前のサイラーグ酒は名品でしたわ。すばらしい味わいで。
50年ものです。
もう、ほとんどこのお酒は世界にも残っていないでしょう。
いまや、幻のお酒ですわ。」
「きゃーーーーー!!」
歓声の声を上げ、少女はグラスを黒髪の女性はの前に差し出した。
女性は大切そうにその瓶を撫で少し微笑むと、サイラーグ酒のふたを開け、少女のグラスへと琥珀の液体を注いだ。
「どうぞ、お呑みください。」
丁寧な仕草だった。
そして、限りなく優しい声音だった。
少女はその琥珀色の液体を一気に飲み干した。
とても、芳醇な香りのするお酒で。
舌の上でとろけるような味に少女は惚れ惚れとした。
「お酒と女は古いほうが味がある。そう、お思いになりません?リナさん。」
「そんなの世の男にいいなさいよー!」
上機嫌の栗髪の少女をちらりと見て、黒髪の少女は微笑んだ。
「どうぞ、お祝いのお酒です。もっとお呑みになってリナさん。」
そして、おかわりをする少女のグラスに、女性は惜しげもなく幻の酒を注いだ。
彼女は少女がその琥珀色の液体を一杯、また一杯と飲み干す様子を確認した。
もう、瓶の中が空になる頃に、少女は聞いた。
「シルフィールは呑まないの?
こんなおいしいお酒。」
あたしばっかりが呑んじゃって悪いわね~!そんな言葉を話しながら、少女は笑った。
そんな様子に、女性はあのままの薄い笑顔で見つめていた。
「いいえ。リナさん。わたくしは結構ですわ。」
そして、女性は首を横に振り、丁寧に断った。
「どうして?」
少女は首を傾げた。
その様子に、女性は小さく笑う。
「どうしてって、
わたくしにはその猛毒の入りのお酒を呑む事はできませんもの。」
まるで歌うな言葉だった。
そのとたん、少女の手からするりとグラスが滑り落ち、地面にぶつかっては砕け散った。