投げられた指輪
その部屋には女性の酷薄な笑い声が響いていた。
身体がしびれて来たんですの?
めまいがする?動悸も?
息苦しい?
まぁ!おかわいそう!苦しいんですのね!
わかります。あなたの気持ちがよぅくわかるんですのよ。
わたくしも、そういう気持ち味わったことがありますから!
ええ。そうです。恋の病で。
身体が燃えるように痛いですって?
喉がからから?
まあ!その症状・・・
ヘル・シャンピニオン。別名『地獄ダケ』の症状ですもの!猛毒ですのよ!
ええ。そうです。
リナさんがお呑みになったお酒の中には、その毒キノコより抽出しました液がたくさんブレンドされていましたもの!
その毒はね、無味無臭なんですよ?
さらに、即効性でほんの少量でも確実に人を死に至らすことができますの。
とても便利でしょう?消えてもらいたい相手に使用するのに。
そんなものが入っているお酒をリナさんったら何杯も飲むんですもの。そうなって当たり前ですわ。
ほうら、お水がのみたいんでしょう?
庭の井戸へと続くこの扉を開けて差し上げますわ。
少女は震える体で、這って井戸まで行った。
しかし、井戸まで着き立ち上がった時点で、絶命してしまった。
水をくみ上げる力は少女には残っていなかった。
少女は井戸に寄りかかるようにして、血を大量に吐き倒れこんでいた。
そして、ただ少女の体を月の明かりだけが照らし出していた。
静けさが生まれた。
その様子を確認すると、黒髪の女性は少女の体の隣にしゃがみ、その死顔を見つめた。
「リナさん。・・・本当に喉が渇いていらしたのですね。
おかわいそう。」
少女の口元には紅い血が流れていた。
黒髪の女性は、少女のまだ色ずく頬を撫でた。
まだ、暖かい。
「せめてものわたくしの優しさです。
井戸の中にはたくさんの水がありますわ。
どうぞ、そちらでお飲みになられるといいわ。」
黒髪の女性は少女の体を持ち上げると、その体を井戸へと投じた。
しばらくして、水の飛び散る音が地下より聞こえてきた。
「リナさん。これでも、私は前向きに考えるようになったんですよ。
盗られた物は取り返せばいいんです。
さようなら、リナさん。」