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投げられた指輪

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それから青年は井戸と同じ白い石で、その井戸に封をした。
そこに自らの手で、『善き人ここに眠る』と、刻んだ。
自分の月並みの言葉に再度涙した。
青年は、今回の仕事先で遅くなったが二人のための上等の指輪を購入していた。
その指輪の一方を自分の左手の薬指へ着けた。
そして、もう一方は井戸の横に寄り添うように生えている薔薇の樹の下へ埋めた。

青年は黒髪の女性を伴って、夜半すぎにそっと、その家をその町を後にした。


これは酷い・・・
嫉妬に狂った人間の女性の凄まじさを魔族の青年は目の当たりにした。
隣をみると栗色の髪の少女は小さく震えていた。
すべてを思い出したようだった。
「思い出したわ。」
少女はわななく唇に手を添え答えた。
自分の身に何が起こったのかを理解した。
どうして自分がさまよえる魂になったのかも理解した。
青ざめる少女に青年は眉間を寄せた。
「ガウリイさんたちのその後の様子を知りたいですか?
 そちらへ行くことも可能です。
 そして・・・その後は・・・
 あなたの望むとおりに・・・しましょうか?」
青年は、少女の心の闇を感じ取り、まるで神の裁判官のようにささやいた。
その答えに、少女は首を振った。
「いいえいいえ。知りたくないわ。
 それに、そんなことも望んじゃいないわ。
 あたしはあいつのことがよくわかるの。
 あいつは生きているものを大切にするわ。」

少女は井戸まで近寄り、その石棺に触れた。
そして、金髪の青年が彫った文字を丁寧に人差し指でなぞった。
その様子を見て、青年は短く言葉を唱えると、白い石は粉々に砕け、消えた。
そして、その井戸の奥から、もうほとんど白骨化している自分の体が出てきた。
栗髪の少女はぼんやりとその自分の白骨化した体を見上げた。
「これがあたしの身体なの?」
魔族の青年は、うっすらと目を開けこくりとうなずいた。
「そうですね。たぶん、もう一年以上は経っているでしょうし。」
そう、殺された季節はちょうど薔薇のもっとも美しく咲く季節。
今もその季節。
薔薇の樹の根元より、白銀の小さな指輪も出てきて、青年の手に収まった。
少女はこれらをみるとなんだか泣けてきた。
その手で横にいる青年の手を痛いくらいにぎゅっと掴んだ。
「憎いですか?リナさん。」
少女はふるふると首を振る。

「リナさん。決して、死者は生き返らない。」
それはまるで諭すかのような口調だった。
「うん。わかってる。」
しばらくすると、白骨化した少女の身体は青白い炎に包まれ、跡形もなく消えてしまった。

何かを決心した少女は言った。
「その指輪はこの井戸の中へ。」
頷いて、青年は白銀の指輪を井戸の中へと投げ込んだ。

ぽちゃん。

小さい水音が聞こえた。
少女はぼんやりとそれを見ていた。
作品名:投げられた指輪 作家名:ワルス虎