こらぼでほすと ケーキ1
ティエリアとアレハレルヤと一緒に、お祝いを贈る。それが、ここんところの組織に残っている子猫たちのパターンだ。刹那は単独で何かしているだろうが、一応、組織を外れたことになっているし直接、渡しているから連名にしていない。いつもフェルトが暗号通信で、『吉祥富貴』へお願いを送り、カードを連名にしてもらっている。どうも、そういうことにまでティエリアは気が廻らないから、いつもお世話になっている。
「いいの。だって、こういうのは、あたしがやりたいから。」
「来年には、あのバカも回収できるだろう。その時に、あいつから礼は言わせる。」
「うん、そうしてね。」
組織が再始動するまでに、アレハレルヤの居場所は探す予定だ。今は、まだ機体のセッティングのほうが忙しくて、そちらまで手が廻らないが、機体が揃ったら、すぐにフェルトも検索するつもりをしている。ヴェーダの稼動領域が増えて、今なら確実に探せるはずだからだ。
こうしてティエリアは、『吉祥富貴』にも知られることなく、軌道エレベーターから降下した。
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ラボのほうに、刹那の帰還予定が連絡されたのは二月の末のことだった。ギリギリ間に合ったか、と、ダコスタも微笑んで、その予定に了承の連絡を送り返す。この時期だけは絶対に戻れ、と、キラが厳命していたから、刹那も、それには従っている。正月明けに、再度、出発して二ヶ月弱の放浪だった。予定では二月二十六日に戻る。ちょうどよかった。その翌日に、寺で年少組メインの宴会があるからだ。
「ニールに連絡しておくか。」
こういう嬉しいお知らせなら、すぐに知らせておくに限る、と、ダコスタもいそいそと携帯端末でニールの番号をプッシュした。
「・・・おお・・・え・・・うん・・そうか。ありがとう、ダコスタ。おまえさんは? ああ、それならよかったら来いよ? ・・・うん・・・どうせ、送って来てくれるんだろ? ・・・ああ。」
なんだか楽しげな声で寺の女房は携帯端末で話している。刹那の帰還予定が判明したんだろう、と、ハイネは、それを眺めつつメシを食っている。これからダコスタと交代でラボに詰める予定だから、ブランチしているところだ。サルは学校、坊主は檀家へ読経に出向いている午後の時間だ。
「戻って来るのか? せつニャン。」
携帯を卓袱台に置いたニールに、ハイネも声をかける。ものすごく嬉しそうに微笑んでいるので、そういうことだろう。
「ああ、明後日に戻れるって。」
「んー、ってことは俺はラボの夜勤の日だな。残念。」
ダコスタが刹那を、こちらに送ってくるということは、ハイネが夜勤ということになる。ここんところ、夜間はダコスタかハイネが常駐しているので、そういう段取りになる。世間様が騒がしくなってきたから、店の営業時間以外は、誰かがラボに詰めている態勢だ。
「どうせ、一週間かそこいらは刹那も居ると思うけど? 」
よっこらせ、と、卓袱台というかこたつに座り、ニールもコーヒーを飲む。ブランチに付き合うつもりで、お茶をしていた。
「ちげぇーよ。翌日、ミニ宴会があんだろ? 」
「ああ、そんなに大層なもんじゃないぞ。」
「まあ、いいけどさ。」
それより重要なのは、三月のイベントだ。こちらは、隠密裏にただいま企画中なのでニールには知らせていない。もう自分の誕生日なんてものには無頓着なので、それに気付かないのだ。なぜ、黒子猫が、この時期に戻って来たのか、それも理解していないらしい。
「メシ食ったら、ちょっと付き合えよ。」
「なんだ? 本屋か?」
「いや、店の衣装を新調しようと思うんだ。それで、あんたのご意見も聞いてみようかと思ってさ。」
「そうか、もう春物の準備しないといけない時期だなあ。」
店は季節の先取りの衣装をつける。だから、三月になれば、春物の衣装になるから、自前で用意しているホストは、そろそろ買い替えの時期になる。キラのようにオーナーとアスランが選んで用意しているものは、そんなことは気にしなくて良いが、それ以外は準備する。
「三蔵さんのは店のものなんだよな? 」
「ホストのほとんどは、店からの支給品だ。自前で用意しているのは、俺と悟浄とアスランぐらいだろうな。イザークとディアッカも自前だったかな。」
バイト組は、いちいち、そんな高級品を自前で用意できるわけがないし、お仕着せを気にしない坊主たちは、それを借りているし、どうしても、こういう衣装で、と、オーナー自らが用意している八戒のようなのもいる。ちなみにニールのものは、支給品だ。これといって拘りがないから、あるものを着ている。オシャレさんを自称しているハイネや悟浄は衣装に拘りがあるから自前で準備している。アスランはお仕着せでもいいはずだが、なぜかアスランの分だけは支給が無い。オーナーからの可愛いイヤガラセであるとのことだ。
「支給品なら金がかからないのに。」
「俺は、そういうのはイヤなんだよ。自分で自分の似合うものを選びたいんだ。ということで、付き合え。バイト代出してやるから。」
「いらねぇーよ。そんなでいちいちバイト代なんか貰えるかっっ。」
「おまえだって着飾れば、そこそこ綺麗になるのにさ。」
「はあ? なんでもいいよ。俺は、そういう拘りはない。」
ニールは衣服に対する拘りなんてものはない。もちろん、以前の仕事やマイスターとしてのミッションで、その場に見合う衣装は着るものの、それだって必要だからであって、拘りがあるわけではない。それが証拠に、私服はとんでもないセンスだったりする。今日も、半纏は、まあ許せる。だが、中身は、かなりヘタったざっくりセーターで中に長袖のジャージ、もちろん下もジャージという格好だ。家着にしたって、酷すぎるとハイネは溜め息をつきたくなる格好をしている。当人曰くは、家事で汚れるから簡単に洗えるものが楽という実質本位な考え方だ。
「寺ではいいけどさ。その格好でついてくるとかやめてくれ。」
「はいはい、普段着に着替えるさ。お代わりは? 」
「いや、ごちそーさん。シャワー浴びてくる。」
作品名:こらぼでほすと ケーキ1 作家名:篠義