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こらぼでほすと ケーキ3

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 むぎゅと抱きついたら、親猫は黒子猫の頭をくんくんと匂う。いつも煤けているのに今日は綺麗だ。一応、髪の毛を洗ったか確認だ。服装も、グレーのコートにイヤーマフと紺色マフラーというモコモコ体勢だから、誰かがコーディネートしてくれている模様だ。そうでないなら、とんてもない配色センスの服装になる。
「誰に見立ててもらったんだ? 」
「キラが用意してくれた。風呂にも入った。髪の毛も洗った。」
「うん、どっからどう見ても男前だ。・・・ああ、今、手が塞がってるんだ。ちょっと待ってくれ。」
 ただいま、親猫は一口フライのパン粉をつけていた。両手がパン粉まみれなので、お茶もおやつも準備できない。
「メシは食った。慌てない。」
「それは、何日前のことだ? 」
「三時間前だ。キラと一緒にメシを食った。」
 前から抱きついていると邪魔だろうと、黒子猫は背中に廻る。とりあえず抱きついて体温を確かめたいらしい。
「それならいい。ティエリアと逢わなかったか? 」
 境内の草むしりをしてくる、と、ティエリアは外へ出た。山門から入ってくれば、それに逢うはずなのに口論する声はなかった。
「居た。だが、俺には気付かなかった。」
「・・・・あのさ、刹那さん。ティエリアと逢うのは久しぶりだろ? ちょっと声ぐらいかけてやれよ。」
「あんたの生存確認のほうが重要だった。」
「生存って・・・俺は元気に寺の女房をやってるぜ? 」
「あんたは信用できない。昼寝はしたか? 」
「はいはい、たっぷりした。ティエリアが五月蝿いんでな。」
 会話しつつ、ニールはフライを仕上げていく。明日の準備だ。これとカラアゲなんかが揚げ物になる。後は、ローストポークや温野菜のサラダなんかだから、これさえ終われば本日の予定は完了だ。
「ティエリアと俺がバッティングするのは、なぜだ? ニール。何かあるのか? 」
 基本、親猫に逢うのは時期をずらしている。ひとりずつになるように、刹那は予定を暗号通信で知らせている。だから、ティエリアが同時期にいるのは不思議だった。ちゃんと、刹那は年明けに、こちらの予定は送り付けていた。
「ティエリアは、おまえさんに用があるんだ。」
「俺に? 」
「内容は自分で確かめてきな。」
 そういうことなら、声をかけてくるか、と、刹那も親猫から手を離す。組織のことで用件があるというなら、親猫のいないところで話さないとならない。その後姿を心配そうにニールは見送っているが、亭主が、「行くな。」 と睨んでいるので作業に戻る。

 たったかと玄関へ戻り、境内へと出た。まだ、紫子猫は境内の端っこで草をブチブチと抜いている。
「ティエリア、俺に何の用だ? 」
「フェルトから、おまえの予定は聞いた。それについての提案がある。」
 子猫同士だと、挨拶も何もない。いきなり用件に突入する。ブチブチと抜いた草を放り出し、ティエリアも立ち上がる。
「エクシアの太陽炉を先に引き渡してもらいたい。おまえが搭乗予定の次期機体は太陽炉が二基搭載される。だから、そのマッチングテストが必要なんだ。他の太陽炉で現在、試しているが結果が芳しくない。どちらにせよ、エクシアの太陽炉は、次期機体に搭載することになるのだから、それを寄越せ。」
「それはできない。エクシアで夏ごろに宇宙へ上がる予定だ。太陽炉を外したら、エクシアが動かなくなる。」
「軌道エレベーターで単独で上がればいい。宇宙での活動なら、組織へ戻ってからのほうがいい。」
「そちらに戻ったら、勝手に動けなくなる。先に、連邦の基地や資源衛星のほうの確認をするつもりだ。それも、フェルトに伝えたはずだが? 」
「だが、再始動に間に合わせるなら、エクシアの太陽炉は先に回収させてもらうほうが効率的だ。これは、組織からの命令だ。」
「俺は、現在、組織から離れている。俺には命令を受理しなればならない責務はない。アローズ関連の施設をチェックするには、エクシアが必要だ。丸腰で近付ける場所じゃない。」
「『吉祥富貴』の機体を借り受ければ、そちらは可能だろう。今もフリーダムを借りているんだろ? それなら問題はないはずだ。」
「それはできない。『吉祥富貴』の機体は地上で活動するには問題はないが、宇宙で発見された場合、こちらに迷惑がかかる。フリーダムはキラの機体だ。組織への協力組織に迷惑がかかるのは問題だ。『吉祥富貴』は、ニールが所属する組織だ。万が一、こちらにアローズの目が向いたら、ニールが危険に晒される。それに、キラたちが攻撃対象にされたら、どうするつもりだ? ティエリア。」
 今、現在、組織は再始動前で動ける状態ではないし、『吉祥富貴』がアローズに反政府組織と断定されたら攻撃されてしまうが、これにも助勢できない。紛争根絶のための武力介入は可能だが、CBは、そう判断しないはずだ。そうなると、勝手に助けに行けない。散々、刹那は、アローズのやり方を見てきた。それからすれば、まず非戦闘員から殺される。攻撃目標になるのは歌姫様と寺の人間ということになる。それらを考えたら、とてもフリーダムは借りられないのだ。
「組織の予定を優先させて考えているおまえには理解できないかもしれないが、周辺にまで視野を広げて考えれば、そういうことになる。」
 そう突きつけられて、ティエリアも絶句する。確かに、CBは、『吉祥富貴』に加勢はしないだろう。協力組織に対して、そこまでの義理はないと判断される。そんなこと考えたこともなかった。エクシアが攻撃された場合は、秘密保持のために出撃許可も降りるだろうから、ティエリアが刹那の助勢も可能なのだ。フリーダムに搭乗している限り、刹那はCBとは関係がないし、地上でならキラが散歩しているということで、相手も手が出せない。だが、宇宙では、その解釈ができない。キラが地上に居ることは、はっきりと把握されているからだ。そうなれば、攻撃される。その辺りのことまで考えが到っていなかった。
「エクシアで活動するのは、俺が助勢することができるからか? 」
「そういうことだ。エクシアは万全の状態ではないから、アローズと接触することになったら、撃破される可能性が高い。キラたちが俺の救助はしてくれるだろうが、なるべく手は煩わせたくない。できるだけ、キラたちの力は借りない。」
 最新鋭機に搭乗すれば、しばらくは敵との性能差があるから戦って負けることはないはずだ。アローズという世界の歪みを破壊しなければ、再始動は終わらない。どのくらいの時間がかかるのかわからないが、なるべくなら『吉祥富貴』に手を出させない方向が望ましい。こちらに関われば、ニールにも戦況が漏れる。それはできるだけ避けたいのだ。
 滔々と刹那が話す言葉に、ティエリアは納得するしかない。これが、ニールの言う経験というものなのだろう。外へ出たからこそ気付くこともあるし学んだこともあるのだろう。だから、刹那は組織一辺倒な考え方ではなくて、キラたちとの関係も鑑みて、エクシアの必要性を説明している。マイスターのリーダーとして、ちゃんと成長していた。
「その考えは、ニールの薫陶によるものか? 」
作品名:こらぼでほすと ケーキ3 作家名:篠義