千年王国
「そんな・・・そんな・・・そんな!!バカなことが・・・」
さーっと血の気が引いて、よよよと、彼は後ろへ後退した。
そして、高位の魔族と恐れられた青年は、痛む頭を抱え、
ぶつぶつと、今までの決して彼にとっては飲み込める状況でないことを口の中で半往復させた。
「そんなバカなことが現実にあるものですかぁあ!?」
「あってたまるものですか!?」
わなわなするこぶしを握り、床に向かって強くつぶやいていた。
そして、突然真っ青な顔を上げ、
「高級ホステスクラブ(会員制)風、金髪金目美人ママの魔王の中のひとりであらせられる僕の上司のゼラス様が!!
こ〜〜〜〜〜んな筋肉ダルマのぼーぼー眉毛の人間だかどうだかもあやしいバケモノと!?!?」
その顔たるや鬼のような形相に違いなかった。
どんどん納得のいかない思いが彼の中では膨れ上がっていた。
その時、
「そ〜〜〜〜〜んなことが、この世にあってたまりますか〜〜〜〜!!!
と〜〜〜ぜん無し!ナシなしナシなしナシっ!!!!!なし〜〜〜〜〜〜!!!!・・・ん?」
つんつん。
彼の漆黒のマントを引っ張る力に気がついて、ゼロスはいつもは開眼しないその目をめいいっぱい開き、ギッとその方を睨みつけた。
「そのバケモノとは、ワシのこと?」
ゼロスの顔の前には、その彼が一瞬の内に拒絶した顔がそこにあった。
フィリオネル王子はゼロスの一部始終の言葉に傷つき、心底悲しい表情を浮かべ、自分の顔を指さしていた。
「うあああああああ!!!!!!
僕の上司に限って、美的感覚が狂ってしまったなんてーーーー!!!」
現実とはかくも厳しいものであった。
すぱーん!!
その大広間に乾いた大きな音が響き渡り、魔族の青年の大絶叫の声は一瞬のうちに止まったのだった。