Da CapoⅨ
星が瞬く前に
一番星が見えた。
夕暮れは校舎を染め上げて、又明日と告げてくる。
外からは心地良い音楽が流れてきた。
瞳を閉じて聞き入る。
餌を欲する猫の動きも止まった。
彼らにも伝わっているのだろう。
切削琢磨している事はいいことだ。
青春青春。
俺はそう思う。
こんなにも音楽に囲まれた空間で、俺は随分と長生きをしてしまっている気がする。
何も成していないまま、このまま年を重ねていく事が普通になってしまった自分にとっては、若い連中の音楽へ向き合う姿は少々心に重い時がある。
過去に戻る事は出来ない。
それを重々承知しているし、理解している。
昼間よりも、静かな夜が来る直前のこの時間が好きだ。
それに…、と俺は口の中で言いそうになる言葉を飲み込む。
聴こえる相手もいないこの場所で何を躊躇したのか、分からない。
溜息を一つついて、苦笑してしまう。
こんなにも穏やかに音を楽しめるのは、多分あいつのお陰だと思う。
「お、今間違えたな。あれを間違えてでも月森が聞かなきゃいいんだがな」