贈り物
ザザァー、と湯が溢れた。
今迄に入ってきた湯船よりは小さいが、檜で造られた浴槽は、大人が二人で入っても十分に余裕がある大きさだった。
檜の香りを胸いっぱいに吸い込んだシャアは、心がとても安らぐ感じになった。
先程の温泉街で見かけた店に、檜で作られた丸いボールが売られていたのを思い出した。風呂に浮かべて香りを楽しむモノだと店員に教えられたので、それを土産に買って帰ろうか。家でも檜風呂の気分が味わえるだろう。
そんな事を考えながら、ほっと息を漏らすと、外の景色に目をやる。
昼間とはまた趣の違う景色は、光と影に彩られている。
庭の背の高い木々は殆ど枝ばかりとなり、寒々とした雰囲気を漂わせていた。根元にあるはずの落ち葉は既に取り除かれていたので、想像する他はないが、さぞかし紅葉時期には鮮やかな色の葉が競い合っていたのだろうな。と、感慨深げに庭を眺めていると、その庭木の中でも青々とした葉が茂る低木には、白い花が咲いていた。花弁の中ほどに淡い桃色を抱いた白い花が、灯篭の灯りに照らされている。まるで先程のアムロの様だなと、思って眺めていると、カラカラカラと、扉が開く音が聞こえた。
「貴方にしては長湯なんじゃないのか?のぼせてもしらないぞ」
「昼間と違って、外気はとても冷えているから平気だよ。どうした?君も入るという格好ではないようだが?」
「仲居さんにお願いして、温泉の醍醐味を持って来たんだよ。ほら、燗酒さ」
浴衣に丹前を着こんだ姿で入ってきたアムロのその手には、小さな盆が携われていて、徳利と猪口が乗っていた。
浴槽の脇にお盆を置くと、猪口をシャアに渡して酒を注いだ。
「ありがとう。・・・もう落ち着いたかね?」
「あぁ、なんとかな。世話をかけてしまったからな。ほんのお詫びだよ」
「君の為なら、こんな事など世話でもなんでもないさ」
シャアはアムロに笑いかけると酒を一口含む。
鼻腔をくすぐる芳醇な香り、喉奥に沁み渡る熱い味わいを堪能する。
「ほぅ、これは美味いな。君は飲まないのか?」
「まだ止めとくよ。貴方に怒られたばかりだからな」
そう言って、アムロは苦笑いを浮かべる。
「それは残念だな。君も愉しみたかったのではないのか?」
「明日に取っておくよ」
負け惜しみ半分、反省が半分な微妙な表情を浮かべながらシャアから庭に視線を移動すると、眼前に広がる庭の景色に感嘆の声を上げる。
「見事だよな〜、手入れが行き届いた庭ってやっぱりスゴイよな〜。あ!あの花って、白くて可愛いくせに、意外と艶やかに見えるよな」
「まるで君の肌の様だよ。ほんのりと桃色に染まっている所などそっくりだ」
「馬鹿言ってろ。俺はあんなに白くない。それよりも貴方の方がそっくりなんじゃないのか」
アムロはそう言うと、庭に出て行き、その木から花をひとつ手折って戻ってくる。湯船の脇にしゃがみ込むと、持って来たその花を浮かべた。
じっと、シャアの肌と花を見比べていたが、綻ぶような笑みを浮かべて大きく頷く。
「ほぅら、やっぱり貴方の方がそっくりじゃないか。丁度、貴方の頬も赤くなってきてるしさ。まぁ、今度は湯あたりじゃなくって、熱燗の所為だとは思うけど?」
くすくすと楽しそうに笑っていたアムロが、突然口元を押さえて小さくくしゃみをした。
「そのままでは風邪をひくぞ。どうする、君も入るかね?それだけ笑えれば、調子も良くなったようだしな」
シャアは浮かべられた花をそっと取り上げて盆の横に乗せると、アムロの顔を見た。すると、ワザとらしく顎に手をやり、考え込む素振りを見せる。
「どう〜しよう〜かなぁ〜」
「まぁ、無理はしない方がよいがな。それなら、足だけでも入るかね?」
「−−ソレだけじゃ済まない気もするんだけどな」
アムロがニヤリと笑う顔を見て合点がいった。
シャアは湯船の中で立ち上がると、アムロの頬に手を添える。ヒヤリと冷たい感触が気持ち好い。目を細めたアムロの耳元に唇を寄せ、そっと囁いた。
「そんな風に誘われれば、どうなるか分かっているね。今度は人目もない事だし?」
「でも俺、明日も外湯に入りたいんだよね〜。・・絶対に!痕を付けるなよ」
今度は耳元で囁く甘い声にも負けず、琥珀の瞳がキラリと光った。
「分かった。善処しよう」
シャアは苦笑を浮かべてそう答えた。
冷たくなったアムロの唇に自分の唇を重ね、熱を分け与える。帯を解き、着ているものを全て取り除くと、湯船に引きずり込む。
アムロの咥内を貪り続けながら、身体の内から熱を呼び起こす様に身体中を丁寧に愛撫し始めた。
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