君と僕との逆転話-序章-
「いっけいっけどんどーーん」
歌いながら駆ける少年は、木の根っこや背の丈ほどもある草をかき分けてゆく。
昔から好奇心旺盛な彼は、いろんなところに駆けていくことが多かった。
よく遊びすぎて、帰れなくなることもあったが、この学園に来てからはそんなことはなくなった。
「ちょ、待ちなさい小平太! 一人で突っ走るんじゃ」
彼の後ろを萌葱の制服を着た少年が追いかけていく。
それが嬉しくて、彼、一年ろ組七松小平太は駆ける速度を上げる。
小平太の小柄さと俊敏さに先輩である三年い組、平滝夜叉丸は表情を引き攣りながらも見失わないように足を速めた。
委員長には好きなだけ走らせておけ、と言われるけれども、元々面倒見のいい性格もあり、そして自分の唯一の後輩を放っておくことなど滝夜叉丸には出来やしない。
小平太は今まで誰一人としてついてこなかった自分の遊びに、最後まで付き合ってくれる滝夜叉丸が大好きで、だからこそ追いつかれまいと足を速める。
普段滝夜叉丸の長い話を途中でぶった切り走り出してしまう小平太だが、滝夜叉丸は一度も小平太の走りを止めてしまうことはなかった。
毎回走りつかれたころに、委員長が五年生の先輩を連れて、滝夜叉丸と小平太を迎えに来る。その途中でいつも行方不明になる四年生の先輩を探し、学園に戻るのだ。その毎日が小平太は好きでたまらなかった。
「小平太!」
だから今日も小平太は山を走った。
滝夜叉丸が珍しく強く彼の名前を呼んだけれど、それを気にすることなく草むらから飛び出る。
後ろから滝夜叉丸が腕を掴んで引き留めたけれど、すでに遅く、二人に鋭い視線と大勢の人間が姿を現した。
作品名:君と僕との逆転話-序章- 作家名:まどか