君と僕との逆転話-序章-
――……ぃん
「……つぅ」
耳に入ってきた僅かな金属音に、滝夜叉丸は秀麗な眉を潜めた。ちょこまかと、複雑な地形を難ともせず走る二学年下の後輩も何かに反応したように顔をあげる。
感がいいというのか、本能というのかは分からないが、少なくとも滝夜叉丸が一年の時には気づきもしなかったその反応に、このこはやはり体育の申し子なのだ、と羨ましく思う。
ただ、小平太はまだ何も知らない一年生で、だから彼はそのかすかな音といえない音を気にすることなく再び走り出した。
「ちょ、小平太待ちなさい」
訓練してやっと僅かな音を拾えるようになった滝夜叉丸だが、委員長曰く、適合者でなければ耳に針を刺されるような感覚、との言葉通り痛みに身体を震わせることになった。
すぐに痛みは引くのだが、小平太はこの森を知り尽くしているかのように縦横無尽に駆け回る。そして三年で一番の成績を持つ滝夜叉丸でさえ気配を必死で追わないと見失ってしまうくらいに彼は姿を隠すのが巧かった。
「まずい」
滝夜叉丸でさえ分かる気配が、小平太の進行方向から感じた。多い、といえるその気配の中に、自分よりも上だと感じる気配もある。
滝夜叉丸は走った。小平太を行かせてはならない。
「小平太!」
止まれ、止まってくれ。
「誰だ!」
そう願う滝夜叉丸の気持ちも届かず、小平太は藪を飛び出す。寸前で腕を掴んだけれど、時すでに遅く、見慣れた装束に、見慣れない少年たちの集団の真ん中に、二人は飛び出した。
作品名:君と僕との逆転話-序章- 作家名:まどか