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君と僕との逆転話-序章-

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ひゅんと空気が裂かれ、七松は反射で仰け反る。顔の前ぎりぎりで過ぎ去った足を掴んでやろうとしたが、同時に投げられた苦無を避けざるを得なかった。
「ちっ」
応戦してもよかったが、後輩たちの前で、後輩によく似た少年を傷つけるのには抵抗があった。
ならば捉えるしかないだろう。
しかし、少年は七松の行動を読むようにひらひらと蹴りを避けていく。
「先輩の体術が……」
平の呆然とした声が聞こえた。
体術ならば学園一の彼が、たとえ年下を相手にしていたとしても、やすやすと避けられる相手ではない。
ちぃ、と七松の舌打ちが聞こえ、中在家が一歩前に出た。
七松を暴走させるわけにはいかない。
六年がそろって眉を潜めた。
立花がタイミングを計り中在家へと合図を送る。
同時に飛び出した縄が七松の腕へと絡みつき、暴走の一歩手前で七松は後ろを振り返った。
「仙ちゃん」
止めるなと口にせず告げた彼に、立花は首を振った。
七松の暴走を下級生に見せるわけにはいかないし、彼の暴走イコール相手の死というのは今現在の状況ではいただけない。
立花は七松のことを中在家に任せ、紫の少年の前に立った。
「んー。アンタたち誰?」
少年は首を傾げながら腕をぷらぷらとさせる。
三年生たちが息を呑んだのが分かった。その仕草はまぎれもなく次屋で、下級生たちがつい次屋と彼とを見比べてしまうのも無理はない。
三年間同室である富松、神崎もそうなのだから。当の次屋本人も気持ち悪そうに眉を寄せている。
「はぁ、俺めんどくさいこと嫌いなんだよね。でも、先輩方に迷惑かけるわけにもいかないし」
次屋と比べ、少し低い声でうんうん、と一人頷きながら少年は先ほど落とされた苦無を拾い上げた。
その仕草に潮江が警戒するように身構えたけれど、少年は気にすることなくその苦無を懐に戻す。
「だからさ、俺の役割はここまで。で、いいですよね、先輩」
「えぇー。ここで丸投げするのー?」
彼が苦無を仕舞い終え、言葉を自分たちの後ろに投げかける。すると木の上から声が降ってきた。
気配がなかった、と五年だけでなく、六年も表情を変えた。
そんな彼らに木の上の人物は穏やかな声を上げる。
「まぁ君にしてはずいぶんと大人しかったし。まぁいいかなぁ」
「さすがの俺でも、この人数を相手に立ち回りは勘弁です。足手纏いもいますしね」
「そっかぁ。じゃあ仕方が……」
ないね、と続くのが分かる言葉。それが突如として途切れた。
ざっ、と風邪もないのに草木が揺れた。
瞬きほどの合間に、一人の青年が少年たちの間に現れる。
「まずいね」
木の上にいた声と同じ。しかし先ほどよりも真剣な声音が、彼の存在感を目立たせた。
「滝、あれ何かわかるかい?」
あれ、と言われてもわかるはずがない。しかし滝、と呼ばれた萌葱の少年は一瞬だけ不思議そうな顔をして、次いで目を瞬かせた。
「学園の……!」
「そう、緊急帰還命令」
視線の先を追った一年は組の誰かが、あれ!と指を差す。
そこには雲一つない空に一筋の煙が立ち上がっていた。
六年が視線を戻せば紫の青年は眉を潜め、現れた蒼の青年も表情を険しくしていた。
言葉だけで意味は伝わるが、彼らがこれから何をするのか見当がつかない。
「三之助」
蒼の青年が紫の青年を呼んだ。
「はい」
ざっ、としまったはずの苦無を構えた青年が彼を見ないまま返事をする。
しかし、次の言葉を聞いて彼は表情を変える。
「二人を連れて帰還しなさい」
「先輩一人残る気ですか!」
俺も残ります、と三之助と呼ばれた紫の少年が叫べば、蒼の青年は叱るように声を荒げた。
「これは命令だよ。それとも君はこの人数と実力者相手に勝てるとでも思ってるの」
「っ……」
冷たい声音が三之助に向けられ、その声音にあちらの浅黄とこちらの一二年がびくりと身体を震わせた。
目の前の青年、今まで現れたものが七松、平、次屋と来たのならば、誰もが考えていただろうその姿。
時友四郎兵衛。
彼が成長したならば、こうなるのだろう。
誰もがそう考えた。
そして彼が真実時友であるのならば、想像がつかない声音。
それはまるで忍務で人を殺めることを知っているような……。
構えた蒼の青年に、潮江と食満が腰を落とす。
中在家が標を握りしめたのは、蒼の後ろにいる三人を逃がさないようにするためだ。
この人数で負けるはずはないと分かっている。問題は彼らが何者なのか、ここが本当に自分たちが知る裏山なのか、ということ。
地の利がどれだけ重要なのか、五年、六年は嫌と言うほど知っている。
キンっ、と音がして潮江と食満が動いた。
普段あれだけ犬猿と言われている二人はここぞというとき強い。
ただ、食満が下級生によく似た相手にどれだけ対応できるのか、という問題はある。
そこがい組とは組の違いだ。
案の定、食満の動きが若干鈍い。
潮江は何も言わないが、内心いらいらしているのが立花には手に取るように分かった。
表に出していないのは、この変化が六年にしかわからないからだ。
そして潮江は私と公を分けるのに長けている。
相手がどれだけ知人に似ていようと、また知人だろうと、守るべきものは守り、敵に対しては遠慮なしに応戦する。
そんなときの潮江の感情は心の奥深くにしまいこまれ、立花でさえ察するのが難しい。
今の潮江を五年はいつもの忍務時の潮江としか認識していないだろうし、下級生にとっては珍しい犬猿の共闘である。
彼の感情を察知しても意味がない。
キインと高い音が響いた。
青年の投げた苦無を潮江が弾いたのだ。
否、投げようとしなかった苦無を投げるように仕向け、尚且つ弾く方向を意図的に操作したのは間違いなく潮江。
彼が制服通り五年なのならば。
「これが一年の差だ」
立花は自身の苦無を取り出し、動くために一歩足を下げた。
「滝!」
蒼の青年の悲鳴が聞こえ、萌葱と浅黄の少年たちがびくりと身体を強張らせた。
紫の少年が苦無を弾いたが、もう遅い。
立花は紫の少年の脇を潜り抜け、萌葱と浅黄の少年の背後に回り込み、苦無を突きつけようとした瞬間。
「仙蔵!」
今まで一切感じなかった殺気が立花を射ぬき、身体が生きるために避けることを強要した。



作品名:君と僕との逆転話-序章- 作家名:まどか