【かいねこ】ダーリン 君と手をつなごう
部屋に戻ったいろはは、鏡の前で前髪をかき揚げて髪留めをつける。
髪留めにつけられた宝石が光を反射し、いろはは首を傾げて、うっとりとその輝きを見つめた。
明日、カイトに見せたら何と言うだろう。誉めてくれるだろうかと、頬を染めながら考える。
何度もつける位置や角度を変えながら、いろはは長いこと鏡の前を離れなかった。
翌朝。いろはは夕べ渡された髪留めをつけ、シトロンの寝室にコーヒーを運ぶ。
「マスター、おはようございます」
「・・・・・・・・・・・・」
枕に顔を押しつけたまま、微動だにしないシトロンに戸惑いながら、
「あの、カーテン開けましょうか?」
「・・・・・・うん」
コーヒーの乗った盆をサイドテーブルに置くと、厚いカーテンを引いた。
柔らかな朝日が部屋に射し、室内を照らし出す。
「マスター、夕べは」
「・・・・・・ごめん、覚えてない」
「あっ、えっと、髪ど」
「・・・・・・晩餐会途中からの記憶がないんだ。気づいたら、自分の寝室で寝てたんだけど」
「あ、カイトさ」
「ひぃっ!?ごめんなさいごめんなさい!!」
「きゃっ!」
ばさっと布団を頭から被り縮こまるシトロンに、いろはも驚いて身を竦めた。
「あの、マス」
「ご、ごめんよおおおおおお!!覚えてないんだよおおおおお!!!」
「あの・・・・・・失礼します」
話を聞いてもらえそうにないので、いろはは仕方なく寝室を出る。
メイコかカイトを探そうと視線を巡らすと、廊下の先に黒いコートが見えた。
「あ、カイトさん」
声を掛けて走り寄ると、カイトが振り向く。
「ああ、おはよう、いろは」
「おはようございます。今、マスターにコーヒーを」
「その髪留めは、マスターから?」
「は?」
唐突に聞かれ、いろははきょとんとした顔でカイトを見上げる。
「あっ、はいっ。夕べマスターから頂きました。あのっ、お、おかしい、です、か?」
「いや、良く似合ってる」
「ーーーー!!ありがとうございます!良かったぁ」
満面の笑顔を見せるいろはに、カイトは視線を逸らし、
「悪いけれど、片づけないといけない用事があるから」
「あっ!ご、ごめんなさい!引き留めてしまって!」
いろはは慌てて頭を下げると、あたふたと階段へ向かった。
作品名:【かいねこ】ダーリン 君と手をつなごう 作家名:シャオ