【かいねこ】ダーリン 君と手をつなごう
メイコは、居間でカイトを捕まえると、
「全く、あの酒癖の悪さはどうにかならないのかしら」
「マスターのことか」
「他に誰がいるのよ。このブローチだって、どうせ誰かから巻き上げた物なんでしょ」
カイトは、メイコの胸元に留められた飾りに目をやると、
「ああ、マスターが、メイコにキスしながら渡し」
言葉の途中で、飛んできたクッションを片手で受け止める。
「唐突に怒る癖を、いい加減治したらどうだ」
「み、見てたんなら、声掛けなさいよ!!」
「邪魔をしたら悪いかと思って」
「あんたは、変な気を回さなくていいの!!」
「いろはも、髪留めを貰ったと言っていた」
カイトの唐突な言葉に、メイコは溜息をついて、
「そうね。あの子にまでそんなものを渡すなんて、全く反省してないじゃない」
「いろはは、嬉しそうだった」
「そういう問題じゃないでしょ。そりゃ、贈り物をされたら喜ぶだろうけど。あの子だって、賭の対象にされて連れてこられたんだし・・・・・・どうしたの?」
訝しがるメイコをよそに、カイトはぼんやりと視線を逸らした。
いろはは、ホールに飾ってある花瓶に活ける為の花を摘もうと、庭に出る。
花壇の方へ足を向けると、突然生け垣から男が飛び出してきた。
「きゃっ!」
驚いて声を上げるいろはの腕を掴み、男は無理矢理自分の方へ引き寄せる。
「やっ!やめっ」
「声を出すな」
「えっ!?あっ、マス」
「マスター」と呼びかけようとして、いろはは口を噤んだ。
目の前にいる男は、もう自分のマスターではない。
レザンは、濁った目でいろはを睨むと、
「いい暮らしをしてるようじゃねえか?え?金持ちに囲われて、さぞかし贅沢させて貰ってんだろうな」
「わ、私・・・・・・」
「あいつは、お前を気に入ったようだからな。可愛がられてんだろ?上手く取り入ってるんだろうな?あ?」
「は、離して下さい・・・・・・」
「いいじゃねえか。俺にもその幸運を分けてくれよ。ああ?何も、金庫をこじ開けろって言ってんじゃねえ。甘い声出してキスでもしてやりゃ、小遣いくらい簡単に出すだろ。行って、ねだってこいよ。さあ」
いろはは震えながらも、「嫌です」と首を振った。
「ま、マスターに、そんなこと出来ません」
「あ?てめぇの主人は、この俺だ。俺の命令が聞けねえってのか?」
低い声で凄まれ、いろはは身を竦めるが、それでも首を縦に振らない。
「ち、違います。私の・・・・・・私のマスターは、あなたではありません」
次の瞬間、乾いた音が響き、いろはは頬を押さえた。
熱と痛みが忘れかけていた記憶を呼び覚まし、その場から動けなくする。
「舐めた口聞くんじゃねえぞ、人形が」
レザンの手が伸びてきて、乱暴に髪留めを引きちぎった。
髪の抜ける痛みに涙を浮かべながらも、いろはは必死に手を伸ばし、
「あっ、だ、駄目です!返して!それはマスターが」
「うるせえ!!」
「きゃあっ!」
レザンに乱暴に突き飛ばされ、地面に倒れ伏す。
「夕方まで待ってやる。それまでに金を用意しとけ」
ポケットに髪留めをしまうと、レザンはいろはに向かって唾を吐き、
「てめぇの主人は、この俺だ。忘れんじゃねえ」
そう言うと、生け垣の向こうへと姿を消した。
いろははのろのろを体を起こすと、泥だらけの服を見下ろして、ぼろぼろと涙をこぼす。
しばらく泣いていたいろはは、しゃくりあげながら立ち上がり、誰にも見つからないよう、こっそりと裏口に回った。
作品名:【かいねこ】ダーリン 君と手をつなごう 作家名:シャオ