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【かいねこ】ダーリン  君と手をつなごう

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夜も大分更けた頃、自室で髪をとかしていたいろはは、ホールで話し声がすることに気がついた。
シトロンが帰ってきたのだろうと、髪を下ろしたまま部屋を出る。

「マスター、お帰りなさい」

ぱたぱたと走りながらホールに向かって声を掛けると、メイコが慌てた様子でシトロンから離れた。

「おいで、いろは。君にもお土産があるよ」

シトロンに手招きされて、いろははそろそろと階段を下りる。

「マスター、酔ってるんですか?」

いろはが小声で聞くと、メイコは肩を竦めて、

「見ての通り、よ」
「おいで、僕の女神。君の愛らしい顔を覆う、そのカーテンを開けたまえ」

シトロンはいろはを抱き寄せると、髪留めを握らせた。

「あ、ありがとうござ」
「礼はいらないよ。この髪留めは、君の髪に飾られてこそ輝くというものだ」

シトロンが髪にキスをしてきて、いろははくすぐったさに身を竦める。

「マスターは、酔うと感じが変わりますね」
「そうかい?君は、どちらの僕を愛してくれるのかな?いや、答えは聞かないでおこう。その可愛らしい唇から、氷のような拒絶の言葉を聞きたくないな」
「マスター、いい加減に」

メイコのうんざりした声と同時に、するりとカイトの手が割って入り、いろはをシトロンから引き離した。

「あっ、カイトさ」
「マスター、今夜はもうお休み下さい。話はまた翌日に」

カイトが淡々と告げると、シトロンは両手を広げて、

「やあ、カイト。残念ながら、お前の献身に見合う物を持って帰ることが出来なかったよ」
「いりません」
「忠実なる友よ。君の無欲さを前にすると、自分がいかに矮小な存在かを思い知らされるよ」
「お休み下さい。話は明日聞きます」

話し続けるシトロンを引きずって、カイトは二階の寝室に上がる。
メイコはカイトの後を追いかけながら、いろはのほうを振り向き、

「いろはも、もう部屋に戻って大丈夫よ。後は任せておいて」
「あ、はい。お休みなさい」

いろはは髪留めを両手で握りしめると、ホールを後にした。