【かいねこ】ダーリン 君と手をつなごう
鮮やかな夕焼けに染まる庭へ、いろはは足を踏み出す。
手の中で光る果物ナイフを、しっかりと握り直した。
生け垣の辺りに近づくと、突然後ろから羽交い締めにされる。
「きゃあっ!?」
「てめえ、よくも俺に黙ってやがったな?人形の分際で」
伸びてきた腕に襟元を掴まれ、力任せに服を引き裂かれた。
「嫌っ!!」
振り払おうとした瞬間地面に押し倒され、いろはは呻き声を上げる。顔を向けると、レザンのぎらぎらした目が、いろはを睨んでいた。
「魔石だ!魔石を寄越せ!そいつがあれば」
「やだっ!!離して!!」
いろはは果物ナイフを振り上げるが、あっさり手首を掴まれ、捻り上げられる。レザンは、取り落とされたナイフを素早く奪うと、頭上に振り上げた。
「きゃあああああああああ!!」
いろはが悲鳴を上げるのと同時に、レザンの体が真横に吹っ飛んだ。驚く間もなく抱き上げられ、いろはは恐怖に身を竦めるが、
「遅くなってすまない。もう大丈夫だ」
「えっ!?カイトさ・・・・・・」
最後まで言い終わらぬ内に、いろはの目から涙が溢れる。
「かっ、カイトっさっ・・・・・・カイっ・・・・・・」
しゃくりあげながらしがみつくいろはを、カイトは強く抱きしめた。
「そいつは俺の人形だ!どうしようが俺の勝手だろう!!」
レザンの怒声にいろはは身を縮めるが、カイトは静かな声で、
「違うな。私のものだ」
その言葉に、レザンへの恐怖も忘れて、いろははカイトを見上げる。
「えっ、あっ」
「ふざけんじゃねえ!!」
レザンの手に握られたナイフが閃き、カイトへと振り上げられた。だが、カイトはいろはを抱え上げ、冷静に身を交わすと、レザンの足を払って地面に転がす。
「ごふっ!てめっ・・・・・・!」
「ここで引くなら、見逃してやろう。これ以上は、こちらも加減しない」
「ふざけんなっ!人形がっ!!」
「・・・・・・そうか」
カイトがざりっと一歩を踏み出すと、レザンは弾かれたように身を起こし、背中を向けて脱兎のごとく逃げ出した。
レザンの姿が見えなくなってから、カイトはいろはを地面に降ろす。
いろははカイトを見上げ、
「あのっ、カイトさん」
構わず、カイトは自分の上着をいろはに掛けた。
「今度から、何かあったらすぐに言って欲しい。いろはに隠し事をされるのは悲しい」
「あ・・・・・・ごめんなさい。私」
いろはは俯いて、上着の前を掻き合わせる。
「いろはに隠し事をされると、信頼されていない気がする」
「・・・・・・ごめんなさい。次からは、ちゃんと言います」
「まあ、次はないことを願うが」
カイトはいろはの頭を撫でると、
「メイコに見られると、騒ぎになるからな。裏口から入ろう」
カイトに引かれた手を、いろはは引っ張り返した。
「あのっ、あの、わ、私は、カイトさんのもの、ですか?」
「違うのか?」
振り向いて悲しげな顔をするカイトに、いろはは真っ赤になって俯く。
「ち、違わない、です」
その言葉に、カイトは安心したように微笑むと、
「私はいろはのものだよ」
いろはを抱き寄せ、額にキスをした。
作品名:【かいねこ】ダーリン 君と手をつなごう 作家名:シャオ