【かいねこ】ダーリン 君と手をつなごう
夜も更けた頃、手入れの行き届いた庭が月明かりに照らされ、昼間とは違う顔を見せる。シトロンが寝室に下がるのを見届けてから、いろははそっと庭に出てみた。
まるで絵本の世界に迷い込んだかのような光景に、忍び足で花壇の間を歩き回る。
生け垣の側に設えられたベンチに腰を下ろし、月を見上げていたら、
「いろは」
声をかけられ、いろはは驚いて飛び上がった。
「ひゃっ!あっ、か、カイトさん」
「こんな遅くに一人で出歩くなんて、危ないな」
「あ、ごめんなさい」
カイトが差し伸べた手に、いろははそっと手を重ねる。
「メイコが気づく前に、戻ろうか。また怒られる」
「あっ、あの!えっと」
「ん?」
いろはは、躊躇いがちにカイトの手を握って、
「あの・・・・・・もう少し、だけ、一緒に、いて下さい」
その言葉に、カイトはふと笑みを浮かべ、
「ああ、いいよ」
いろはの隣に腰を下ろした。
月明かりが冷えた光を降り注ぐ中、カイトは月を見上げ、いろはは俯いて自分の足下に視線を落とす。
「この家には、慣れたか?」
カイトの問いかけに、いろはは小さく頷いた。
「ここに来て良かったです。あの、カイトさんと、あ、会えたし」
「そうか。私も、いろはが来てくれて良かったと思うよ。メイコも喜んでいる」
「あ、はい。め、メイコさんにも、会えて良かったです」
微かな木々のざわめきと、夜鳴く鳥の声。わずかな衣擦れの音をさせて、いろはは身じろぎすると、
「・・・・・・私、カイトさんのことが、好きです」
「そうか。私も、いろはのことが好きだよ」
さらりと答えるカイトに、いろはは目を伏せて、
「でも、私の『好き』とは違います」
小声で呟いてから、顔を上げる。
「ごめんなさい、引き留めてしまって。戻りましょう」
「ああ、そうだね」
「メイコさんに、心配を掛けてしまったでしょうか?」
「まだ気づいてないんじゃないかな。そう願おう」
くすくす笑うカイトに、いろはは悲しげに微笑んだ。
作品名:【かいねこ】ダーリン 君と手をつなごう 作家名:シャオ