茜空とほうき星
「……っ」
突然、暗闇に襲われたかのように不安になった心が、ビリーの腕をつかんでいた。それは無意識のうちにせがんだ答えだったと思う。
「グラハム?」
「……カタギリ。君が今、流れ星に願いたいことはなんだ?」
前後のない問いかけに、さすがにビックリしたように目を見開いたビリーだけど、すぐに穏やかで優しい、見るものを安心させる笑顔でこう言ったのだ。
「君がほしい、かな」
グラハムの身体から、ふっと力が抜けて、ビリーの腕をつかんでいた指もはらりと解けていた。
聞きたい言葉は、間違いなくそれだった。
君がほしい。
それは願ってもいいことだったのか。グラハムはずっとわからなかった。
最初から何かが欠けた状態で生れ落ちた身だから、望むことがすでに不相応な気がしていたのだ。それを求めてもいい立場ではないというか、求めずにいればこれ以上は何も失うことがないと、自分に言い聞かせてきたのかもしれない。知らないうちにずっと。
「……私は、望んでもいいのだろうか」
人が、人の心や身体を求めても、罪にはならないというのなら、グラハムには今ほしいものがあった。
「何か見つかったのかい?」
小首をかしげて、優しく聞いてくるビリーの顔を、グラハムは真っ直ぐ見つめる。
「君がほしい」
夜空のどこかで流れる星に願いを込めて、グラハムは言った。ビリーの、変わらない穏やかな黒い瞳の中の光彩が、まるで宇宙に浮かぶ星のようだと思った。
「嬉しいよ、グラハム」
その瞳が近付いてきて、再びキスを交わす。背中に腕を回しながら、流れ星がくれた存在を今度はしっかりと抱きしめていた。
ほしいものとは、手でつかめなければ意味がない。そして、手放したくないと思うものこそが、きっと大事なものなのだ。
空は大きすぎてグラハムの手にはつかめないけれど、この手が抱きしめられる存在ならば、何を欲しても許されるのだと知った。
それは夜が明ける瞬間の喜びにも似ていた。
ソファは狭いからと、ビリーの寝室へと移動して、互いの望みを叶えるための行為に没頭していた。
「…は、ぁ」
ビリーの大きな手のひらに素肌を撫でられるだけで、ゾクゾクとした波が全身を襲い小刻みにふるえだす。ずっとこの手がほしくて、たぶん、愛してもほしくて待ち望み続けていたから、手のひらがくれる熱だけでも悦びを覚えてしまうのだろう。
「あっ! な、に…?」
初めて感じる場所への刺激に、思わず顔を上げて見てしまった。
「僕の指だよ。よく解さないと君にいらない怪我をさせてしまうから、少し我慢してね」
「う、わ…っ、ひゃっ!」
後孔から内部をこねるように侵入してくる指の動きに、たまらず変な声をあげた。ビリーが少しおかしそうに笑っている。
「可愛いね」
「う、うるさ、あっ…!」
蠢く指の動きが変則的すぎて、耐える準備が追いつかない。細く長い指が付け根まで入ったことが感触でわかると、想像だけでイってしまいそうだった。
「あ、カタギ、リ…」
「そんなに、気持ちいいの? 嬉しいねぇ」
片足を持ち上げられ、自分でも見たことのない場所を彼に見られて、しかも指まで挿入されているのに、感じてしまっているのだ。かなり恥ずかしいけれど、この気持ちよさには抗えなかった。
「気持ちいい、から、もっと……」
してくれと素直にねだると、ビリーにマジマジと顔を覗き込まれていた。
「君は、本当に何事にも全力だよねぇ」
「…本気で挑まなければ、本当のよさなど、得られない、さ…」
「至言だね」
格好いいよと褒められて、グラハムは照れた。
ビリーの指の動きが先ほどよりも激しさを増す。緩急をつけて出し入れされる動きと、ときおり内側を叩くように刺激してくる動きに、グラハムの背が仰け反る。中心に立つ半身にも手を添えられ、竿を上下に擦られたら、もう本当に限界だった。
「はっ、あっ、出る…っ」
「いいよ」
グリッと、親指が鈴口を押した。促されるままに達したグラハムは、中心からドクドクと、白濁した液体を吐き出していた。
「あ…」
「気持ちよかったかい?」
「……うん」
はぁ、と大きく息をつきながら、グラハムは素直な返事をする。射精の余韻に浸った恍惚とした表情で、ぼんやりと宙を眺めていたグラハムの頬を、ビリーの手が軽く叩いてきた。