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可愛い貴方 馴れ初め(同人誌書き下ろし分)

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実際、傍から見ればアルフォンスの言う場面はエドワードが巨大な鎧の膝の上に載ってぶら下がっているようにしか見えないのだけれども。


「でね。」

「うん。」

「姉さんをマスタング大佐に貸してあげようと思うんだけどどうかな?」

「はぁ?」


姉さんはとても暖かいし、包容力があって、いつも僕を前向きにしてくれる。
旅に出ている間、僕は姉さんの温もりを沢山貰っているから、イーストシティにいる間だけなら大佐に貸してあげてもいいかなって。


「言いたい事は良く判った。俺も色々突っ込みたいところはあるんだけどさ、一個だけ…。」

「なに?」

「俺モノじゃねぇし、貸すとかおかしいぜ。」

「じゃあ姉さん、あんな大佐を見て何もせずにいられるの?」

「や、そういう問題じゃねぇだろ。てかさお前、よく考えてみろ、皆が皆お前と同じもので癒される筈がないじゃんかよ。」

「大丈夫、姉さんは天使だから!!」


本気でお前がわかんねぇよ、アルっ!


ぐいぐいと背中を押され、鎧の手が重厚な扉を再びノックする。
返事を待たずに開け放つアルフォンスにしては珍しい行動にぽかんとしていたら、どんと突き飛ばされてエドワードだけが執務室に放り込まれた。


「じゃあ僕は皆さんのお手伝いしてくるから、後でね~!」

「おい、アルフォンス!!」


ばん!
無常にも鼻先で閉じられた扉は、盛大な音を立てて、その余韻でびりびりと震えていた。



普段滅多な事でスカしたを崩さないロイも、今日という日だからなのか、アルフォンスの突飛過ぎる行動に、口を開けたまま呆然と立ち竦んでいる。
ただでさえ童顔である彼のその可愛らしくすらある表情に、エドワードは強張っていた頬をふっと緩めた。


少女の笑った気配に気付き、ロイは体裁を整えんとこほんとわざとらしい咳払いを一つして口を開く。


「どういう事かね?鋼の。」

「いや、俺にもよくわかんねーんだ、け………ど。」

「?」


尻すぼまりに消えていった声を不審に思い、凝視していたアルフォンスの消えていった扉からエドワードへと視線を移すと、きょとんとこちらを見つめている金色の双眸。

愛らしいその姿には似つかわしくないほど男らしく頭をわしわしと掻き乱し、少女は大きな溜息を吐いた。


「あー……わかった、解りましたよ。」

「君が一人で納得しても、私にはさっぱり…鋼の?」


何を思ったのか、鋼の錬金術師はロイに向かってとことこと歩き始める。
コートをばさりと脱ぎ捨てると、途中にあった革張りのソファへと無造作に放り投げた。
機械鎧を隠すためなのだろう。
普段滅多な事が無ければ脱ぐ事の無かった筈の、黒衣の襟に指を添えた時には、流石のロイも焦って止めにかかった。


「こら!ストリップでも始めるつもりかね?」

「うるせーな。」


どんなに少年の姿に身を窶していても、彼女は列記とした女の子で、そんなに簡単に肌を晒して良い訳など無いと、普段の素行の悪さすら棚に上げて手を伸ばす。

ぱちん。

止め具を弾いた音がやけに大きく響いた。

一連の動きが余りにも素早かったせいもあるのだが、差し伸べた手がエドワードの行動を止める事はできなかった。

外気に晒された機械鎧と生身を繋ぐ肩の傷に目を奪われる。

彼女のその錆色に輝く指先だけは何度か見た事があった。
無論軍内にも機械鎧を装着している人間は結構いて、珍しいものではないと思っていた。
機械鎧の手術はどんな屈強な男でさえも、叫び声をあげ、涙や鼻水を垂れ流す。
術中失禁する者だって少なくは無いという。
そんな激しい激痛を伴う事を知っていたはずなのに。

そんなのはただの知識でしかないのだと、その生々しい傷跡が告げていた。

反応を見る為に麻酔などは一切使えず、剥き出しの神経を弄くられ、接続部分の金属を埋め込まれる感触を想像して、血の気が引く。

思わず青褪め口元を手で覆ったロイに、エドワードは僅か眉を顰めた。


「あれ?アンタに見せるの初めてだったっけ?………ワリィ、気持ち悪かったかな。」


一瞬で表情を変えた少女は、本当に衒いも無く笑いながらそう言った。
慣れているのだ、こんな顔をされるのは。



エドワードの言葉に、笑顔に、心臓を鷲掴みにされたような気持ちになった。
醜いなんて、気持ち悪いだなんて思ってなどいない。
ただその痛みを想像して、つい。


つい?つい何だというのだろうか。


真実とは、耳で聞いた、本で読んだ知識よりももっともっと重くて様々な感情を内包しているもの。
それはロイ自身が身を持って理解していたはずだったのに。

同情など、唯の傲慢なのだ。


ソファに放った上着を手に取り、再び身に着けようとばさりと煽った少女の手を掴んで止めた。
金色の瞳が大きく見開かれ、ロイだけに注がれる。


「違うんだ、すまない。気持ち悪いなんて思ってないよ。」

「いいって、気にすんなよ。」

「本当なんだ!ああ…それよりも…そう、少し見せてくれないか?」


不躾なお願いをしたものだと、言った瞬間後悔したが、少し小首を傾げ考える素振りをした後、エドワードは自分の機械鎧の事を言っているのだと気付いたのか、ふんわりと微笑んだ。
ただ嬉しそうに。
そして着ようと片腕を通していた服をそのままぽいと床に投げ捨てる。


「いいよ。」


少女は今度こそ本当にロイの目の前までやって来ると、小さな両手で男の手を取りぐいぐいと引っ張った。
まるで遊びをせがむ様な子供のような仕草が、妙に歳相応で可愛らしく、好きにさせてやる事にする。
長いソファの前まで来ると突然下に引き降ろされ、半ば強引に座らされてしまった。

ぎし、と音を立てて沈み込んだロイの前に立ち、何故か上機嫌なエドワードに、ふと先ほど一瞬だけ見せた表情を思い出しほっと息を吐き出す。


「見てくれんだろ?」

「あ、ああ。」


黒いタンクトップから伸びる鋼を、ぬっと目の前に差し出された。
触れていいものかと戸惑いじっとその掌を見ていると、親指から順に握り込み、続けて小指から開いて見せる。
そのスムーズな動きに「ほう…。」と感嘆の声をあげたロイの反応に、エドワードは満足気に頷いた。


「すげーだろ!な?俺の宝物なんだぜ!」

にかっと笑い、続けて口を開く。
何故だかいつもより饒舌に感じた。

「触ってもいいぞ!」

強引とも取れる動きで、大きな掌にぐっと右のそれを重ねてくる。


ひんやりとしていて、綺麗に磨かれた金属独特の触り心地。
無骨かと思っていたその指先は、実はとても繊細で左手同様のたおやかさを見事に再現していた。


「ウィンリィが俺のためにって作ってくれた特注品なんだぜ?あ、ウィンリィって俺の幼馴染。アンタ会った事あるよな?」

「初めて会った時にいた子かい?」

「そうそう、あいつすっげー凶暴でスパナで殴るんだぜ?ひでーと思わねぇ?」


あまりにも楽しそうに笑うから、つられて笑ってしまった。


「ははは、君の幼馴染らしいね。」

「どういう意味だよ!まぁでも…すげぇ優しいんだ。」


ふと細められた瞳は、望郷の念か心無し潤んで見え、ずきんと胸が痛んだ。