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リスティア異聞録 4.2章 ライラは生きたいと願った

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それから数日後、ライラはユニオンの首都に有る貴族ラインハルトの家に居た。村でライラ達3人を救ってくれた騎士の家である。この家にメイドとして仕えていたのだ。ライラは見目が麗しく、また聡明であったため食堂での給仕や家人から用事を受け賜る御用番として利用された。不幸な出自であることを察してか家の者達も優しく接してくれていたし、メイドとしての仕事も楽しかった。

「ここでならばやっていける」

と、ライラは考えていた。「ここでならば」もなにも他に行くところなど無いはずなのだが買い出しの時に見た市場の活気や街行く人達の華やかさを見ていると「この街でならば、なんとかなる」ような気がしていた。

この家に奉公するようになってから三年が経ったライラ16才のある夜のことである。家人が寝静まった屋敷の中、ライラは本を読んでいた。貴族のメイドに恥じぬ教養が必要であると、執事から毎週課題図書が渡されるのである。この家では家事全般に従事するメイドはメイド長付きで、ライラのような給仕に携るメイドは執事直付きである。

ともかく本を読み終えたライラは凝り固まった身体を伸びで解して窓を開ける。部屋の中に沈殿していた空気が流れ始める。止まった時が動きだしたかのように感じる。深呼吸をして空を見上げると月はちょうど真上に見えた。夜半過ぎ。早く寝なければ明日に差し支える。

「ライラさん?」

と、窓の外から声が聞こえた。どこから聞こえたのかと窓から身を乗り出して見回してみると、上の階の窓から、この家の長男が身を乗り出してこちらを見ている。

「ライラさんって、この部屋のすぐ下に居たんですね? こんな遅い時間まで何をしてたのですか?」

「はい、最近、この部屋に移ったのです。本を読んでおりました。ぼっちゃま、身体を乗り出していると危ないので、どうかお戻りください」

エプロンドレスを着ている訳ではないのに、メイド言葉になってしまっている自分が少しおかしかった。「ぼっちゃま」と意識しなくとも出てくるものかと。そういう習慣が身体に染みつくほどの時間が過ぎたものか。ライラの部屋から漏れる光が庭園の桜の木の開きかけの蕾を照らし出していた。

「えっと、じゃあ、僕も寝ますが…… 明日にでも読んだ本の話を聞かせてください。ライラさん」

「はい、お休みなさいませ。いずれは、この家をお預りになる大切なお身体。夜更かしはほどほどに……」

ライラはそう言って窓を締める。この家、ラインハルト家の長男はライラと同い年である。父に似て立派な体格と涼しげな目元の美しい少年であった。聡明さと、強さを持ち合わせており将来を有望視されている。ライラは仕える身でありながらも、時々、この少年を「独り占めしてゆっくり話をしてみたい」等と思ってしまうことがある。今夜は独り占めして、少し話すことが出来たのが嬉しかった。

翌朝、執事からライラに妙な指示が出る。執事はライラに指示を出すために呼びつけ、いつものように威厳を保ったまま指示を出そうと考えをまとめていたのだが、言葉を紡ごうとするうちに苦笑してしまった。ガラスのモノクルを外してハンカチで磨きながらくだけた調子で喋る。

「ぼっちゃまが、午後のお茶にお前を招きたい…… と言うのだ。ライラは給仕だから、そういう訳にはいかないとお断りしたのだが、どうしても……と、聞かなくてな。ぼっちゃまは、今日は庭園でお茶を召し上がるそうだ。そこにお前が給仕としてつきなさい」

ライラはおかしくなってしまった。「そこまで昨日読んでいた本の話を聞きたいのかしら」と。昨日読んでいた本はアラヴィス山のドラゴンの伝説についてである。ライラはその辺りで育ったのだが、竜の巣そのものに近付いたことが無いので、実際に見たことはない。時々、村人達が飛んでいる竜を見たのと見てないのと騒ぐのを聞いた程度である。こんな話を聞いて面白いのかしら、つまらない奴だとがっかりされないかしら。そんな風に思いながらも、どこかで、また独り占め出来ることを喜んでいる自分に気付いて、ほんの少しだけ赤面する。ライラは、この日の仕事をずっと上機嫌でこなすことが出来た。ふと窓の外を見ると桜が3分咲きといったところか。

「ずいぶんご機嫌なのね、ライラ」

ライラのご機嫌っぷりにリムルがライラに声をかける。リムルはライラと同じ執事付きのメイドである。二人とも給仕としてのパーラーメイドを主に、ライラは執事の補佐を、リムルは奥様付きのレディメイドに従事している。華やかな二人は重労働のハウスメイド達からは何かにつけて嫌がらせを受けている。そのような中、自然と二人は団結するようになり、そこに友情も芽生えるようになっていた。

「わたし、そんなにご機嫌に見える?」

ライラはハッとして昼食の食器を下げる手を止めて聞き返す。

「そりゃあもう、鼻歌を歌うくらいですもの」

「え! 鼻歌歌ってた?」

「冗談よ! でも、あんまりご機嫌にかまけて、仕事を疎かにしないでちょうだいね」

リムルはクスクスと笑う。

午後のお茶の時間である。ライラは焼きたてのスコーン、とれたてのバター、茶葉と湯を盆に載せて庭園の真ん中にある白いテーブルセットへ運ぶ。アールグレイのセカンドを手慣れた手付きで注ぐ。

「失礼します。本日のお茶はアールグレイのセカンドです」

と言ってお茶を供す。
長男は香を嗅ぎ、一口含み、口の中で転がして鼻に抜く。彼にとっては珍しくもないし、飲み慣れた味。単に習慣として鑑賞する姿勢が出来ているだけ。それもいつしかフリだけになってしまっていた気がする。

「ライラさん。君は優秀なんだってね。執事も喜んでいましたたよ。給仕の仕事だけではなく事務職の手伝いもしていて執事の負担が大分減ったようです。執事の目が家全体に届くようになって、より過し易くなっているのを感じています。有難う」

「勿体無い御言葉です。私は出来ることをやっているだけです。これからも尽力して参りますので、よろしくお願い致します」

「昨日はどんな本を読んでいたのですか? 確か、執事から一般教養の課題といって、ちょくちょく本を読まされているとか」

「ええ、その通りです。昨日は、私の生まれ故郷でもあるアラヴィス山のドラゴンの伝説に関する本を読んでおりました」

「その話、聞かせてください。普段読ませてもらえる本が、兵法書と人の扱いに関する本ばかりで飽き飽きしているのです」

「アラヴィス山にはドラゴンが住んでいます。ドラゴンは基本的に人畜無害な存在ですが、人間が度を超えて増長し他の生き物や神を蔑ろにした時、人間を滅ぼそうとすると言われています。アラヴィス山に居るドラゴンは言わば、その監視役といったところでしょうか…… そういった内容の本ですね」

「うん、詳しく聞かせて!」

ライラはドラゴンにまつわるいくつかの伝説と、実体験に基くライラの故郷の風景を混ぜて語る。長男は始終ニコニコとしていて人の話を聞いているのか、聞いていないのか分からない様子であった。

「…… 以上です。そろそろお戻りにならないと、夕方からの座学に間に合わなくなりますよ」