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リスティア異聞録 4.2章 ライラは生きたいと願った

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ライラが嬉しそうに言う。母からすると、ライラがジジイにやけに懐いてしまっていて少し気掛りではあったが「ライラはそういう種類の賢さに溺れたりはしない」ということについて確信していた。「ライラは圧倒的に人間に対してリアリストである。それは恐らく性差なのであろう」と考えていた。

「そう。あとでお爺ちゃんのところへお使いに行ってちょうだい。じゃあ、スープできたからお昼にしよう」

アラヴィス山における夏の食習慣は二度の冷たい食事と一度の温かい食事だ。女が昼に火を使った食事を仕込む。この時、まずスープを作る。そのスープを二つに分けて、一方を昼に飲むためのスープとして調味する。もう一方を干し肉や塩漬け肉を戻して煮物にするためのスープにする。この煮物も日の出ているうちに作ってしまう。昼は温かいスープで一番幸せな食事を、夜は冷たい煮物で酒を飲み、朝はチーズと固くなったパンで済ませる。可能な限り火を使う時間を昼間に集中させて不慮の山火事を防ぐための習慣である。雪に覆われて山火事の心配が少ない冬はこの限りではない。父親が家畜の世話から帰ってきて、一家揃って一日のうちで最も幸せな食事をしている時、母親が口を開いた。

「ライラに勉強教えていて思いついたのだけれど、ここいらの人達にも読み書きをしっかり覚えてもらった方が仕事がやり易くなると思うのよね……」

先程からひっきりなしにタマネギとジャガイモのスープを口に運んでいた父も、手を止めてそれに同意する。

「そうだなぁ…… 確かに教育は多少必要だと思うけれど……」

母親がいつもの「凄いことを言い出す時の顔」をしながら続ける。

「だってね、あなた。良い大人でも薬の行商に行って明かな赤字になるまで値切られても、お金が入った〜って喜んで帰ってくるのよ? ちゃんとした計算が出来ないのよね。これはちゃんと教育しなければって思ったわ。それでね、そろそろうちもそれなりに蓄えが出来たでしょう? 冬場、子供達が薬草マラソンを出来ない時期のために学校を作ってしまおうかと考えているの」

父親だけではなく、黙々と食べていたライラまで声を合わせて驚く。

「学校を!? 作る!?」

「そうよ。別に建物を作ろうって訳ではないのだけれど。空いている建物を改築して、村に居る子供の分の机を用意して、教科書を書いて、私が教えるの……」

父親は、突飛過ぎて具体的なイメージの出来ない話にうーんうーんっと唸りながら返答をする。

「まあ、無理ではないのだろうが……」

「あなたはこの土地の生まれ、私はこれまで撒いた種のおかげでそれなりに頼りにされている。ここまでやっておけば何をしても目立ち過ぎだと反感を買う心配は少ないわ。そしてここで、教育まで握ればこの土地での政治力は格段に上がると思うの」

父親は、パンを千切って口に運ぼうとしていた手の止めて、呆れ顔で言う。

「そういうのが嫌いだから、首都から引っ越してきたんじゃないのか……?」

「勿論、嫌いよ。でも人が3人以上居る場所ならば必ず生まれるのだから仕方無いじゃない。そして嫌いだからこそ、それに巻き込まれる前に抑えにかかるのよ」

この土地は好きで、ここに居る人達も好きだ。しかし、自分が便利を持ち込んで生活に余裕を生ませてしまったら、段々と政治的な動きが生まれ始めた。もう、便利と蓄えを欲する流れは止められない。ならば、便利と蓄えのために必要なのは学問であり、それを与える代わりに政治力の頂点を貰う。政治が嫌いだから政治力の頂点から人々の政治的な動きを抑える側に回るということ。と、母がひとしきり語るのを聞いた父親が苦笑いしながら、

「なるほどね…… 君はやっぱり首都に居た方が良かったんじゃないかな…… って思ったよ。まあ、君がそうしたいのならば、そうすると良い。協力は惜しまないよ」

と言って最後のパンの一切れを口に放り込んだ。

母親は、

「学問ばかり修めて魔法が少し使えるだけの平民の女が、そんなところに介入出来るほど、首都の貴族様の世界は甘くないのよ」

と言う声を飲み込みながら、スープの最後の一掬いを口に運んだ。