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リスティア異聞録 4.2章 ライラは生きたいと願った

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アラヴィス山の短かい夏が終わり、北国の風が木々を赤く染めて一夜に燃え落ちる乙女の恋のような紅葉を連れてくる。紅葉が終わると生命がなりをひそめ、空気が澄み渡り、どこまでも清浄なモノトーンが彩る冬が始まる。一年の実に半分を占める冬。ライラ10才の冬のはじまりのことであった。

利益率の低さから出荷向けの農業を止めてしまったために現在は使用していない粉挽き小屋が有った。ライラの母はその小屋を譲り受けて改築し、そこに教室を作った。あとで色々因縁を付けられても面倒なので領主へ教育活動を行なう旨の許可をとりつける。この時、ライラの家も単に教育活動に勤しんでいるだけでは、やがて生活が立ち行かなくなるので領主から簡単な教育補助の名目の給金を貰う契約もとりつけた。領主としても学問が浸透し、それによって税を多く徴収出来るようになれば、それに越したことはないと考えていたのである。村人達も冬場手を余らせて、邪魔にはなっても大した手伝いもさせられない子供達の面倒を見てくれるのjであれば喜んでと、学校を受け入れた。教える科目としては読み書きと数学。ユニオン首都のような都会ならばともかく、この辺りは識字率が極端に低い。領主のような貴族を除けば、10人に1人といったところか。ライラの母としては、まず子供達に読み書きを教えて簡単な読み書きを親へと伝えてもらうのが第一の目標。大人達に直接教えようとしてもプライドが邪魔して素直に教わってくれないだろう、という憶測からである。簡単な読み書きを扱えるようになり、帳簿を付けるようになれば、この村は更に豊かになるはずだと考えていた。

さて、最初の授業が始まる。しかし、いきなり躓いてしまった。思っていたよりも「圧倒的」に子供達は厄介であった。まるで人の話を聞かないし、話していることを理解する気がない。人語を喋りはするが、喋るだけであって、コミュニケーションを取れる文化的な生物ではなかった。挙句の果てには授業中に勝手に喧嘩は始めるし、とても勉強が出来る環境ではなかった。ライラの母がどうしたものか……と悩んでいると、ライラが急に立ち上がって叫んだ。

「皆、ちゃんとお母さんの話を聞いてよッ! 勉強しに来てるんでしょ? ちゃんと勉強しようよ!」

「うっせぇブス!」
「いや、ライラはブスじゃねぇだろ」
「なんだお前ライラのことが好きだったのか?」
「いや、そんなんじゃないけど……」

一度静まりはしたものの、また、ワイワイガヤガヤが始まったのでライラは机をバンバン叩きながら再度叫ぶ。
「勉強しに来てるのに、なんで騒ぐの?」

「字なんか分かんねーし覚えても使わねーと思うし、どうせなら雪もまだ降ってて、積もって時間経ってねーから柔らかいうちに、雪合戦とかしてーし」

なるほど、学ぶと何が得られるのかが分からない。それが分からないから目標が立てられない。すると勉強する気にならない。ならば、この勉強で得られることの説明をしよう。そして、それがどれだけ楽しいことなのかを教えて目標を立てさせよう。そして、学ぶことそのものの楽しさを伝えよう。そして近視眼的な目標のために学んだ後のご褒美も用意しよう。

ライラの母も教壇をバンバンと叩いて話し始めた。

「よーしッ!注目。雪合戦は楽しそうだから授業が終わったら少し時間を取ろう。その前にチャッチャと勉強してしまおう。それまでは、ちゃんと言うこと聞きなさいねー。授業が終わらないと雪合戦始められるのが、どんどん遅くなっちゃうぞぉ」

読み書きが出来るということは、覚えておくことが出来るということ、思い出すことが出来るということ、伝えることが出来るということ、伝えてもらうことが出来るということ。今日という日を記録することが出来るということ。昨日という日に遡ることが出来るということ。誰かが書いた知らない世界を知ることが出来るということ、誰かに自分の知っている世界を知らしめることが出来るということ。と、母親は一通りのことを話すと生徒達も読み書きに興味を持ち始めていた。

「例えば、本を読むことが出来ます。皆さん、お父さんやお母さんに昔話とか聞いたことが有るわよね? ああいった物語を沢山字にして残している人が居ます。それらを読むことが出来れば、どれだけ楽しいでしょう? それから、例えばこの手紙、ユニオンの首都の知り合いから年に何回か届くものなの。書いたら行商の人にお金を渡してお願いしておくと届けてもらうことが出来るわ。普通、ユニオンの首都の人からは声は届かないでしょう? その声を届けてもらうことが出来るの」

そう言って、顔繋ぎを目的としていて用件らしい用件が無い代わりに他愛の無い冗談に溢れた手紙を読んで聞かせる。教室が軽く笑い声に溢れる。

「じゃあ、実際に皆さんも書いてみましょうか。学校の外に集合よー」

そう言って子供達を外へ連れ出す。子供達は

「えーっ字なんか書けないし、どうやって手紙なんか書くんだよ」

と、ワイワイガヤガヤを始めた。

「では、皆さん雪玉を沢山作って待っててくださいね。ライラはこっちへ」

母親はライラを端の方に連れ出すと。

「ライラ、家に戻って赤い木の実と黒い木の実が詰まった袋有ったでしょ? そうそう、おやつ用のアレ。アレ、取ってきて。走らなくて良いからね。」

ライラは頷くと、走って家に戻って、すぐに木の実をとってきた。

「雪合戦を始める前に手紙遊びをしましょう。ここに二つの木の実があります。赤い木の実が "元気ですか?" で、黒い木の実が "元気ですよ" と言う意味です。この二つの木の実を今作った雪玉へ入れます。まず、"元気ですか?"と聞きたい相手に、赤い木の実が入った雪玉をぶつけてください。雪玉をぶつけられた人は、中の木の実の色を見ます。中が赤い木の実だったら黒い木の実の入った雪玉を相手にぶつけて"元気ですよ"と、お返事してください」

子供達は一通りやったら途中から雪玉をぶつけることを目的としてしまうだろうけれども。直接喋らずに「元気ですか?」「元気ですよ」を伝え合う一通りを経験させられたならそれで充分である。子供達がウロウロしては、一通りの相手に "元気ですか?"玉 を ぶつけて、"元気ですよ"玉 を 返してもらっているのを見て、母親は満足していた。

「はいはーい、大体挨拶は済みましたねー。では、そのまま雪合戦はじめちゃってくださーい。でも、ライラはこっちー」

「ごめんねライラ、まだ、皆に頼み辛いから、あなたにばかり頼みごとしちゃって。さっき、暖炉の火消してきちゃったから小屋の裏側から薪をとってきて頂戴。母さんは小屋の中で火種作っておくから」

ライラは母親の指示通り小屋の裏側へ薪を取りにいく。秋の間に貯めて乾かしておいた薪を5、6本ばかり見繕って抱えて戻る。その戻ってくる途中で、いきなり雪玉をぶつけられた。

「きゃッ」

ライラはびっくりして何本かの薪を落としてしまった。薪が雪の水を吸ってしまう前に拾ってしまおうと、慌てて拾おうとして、手に持っていた薪を全部落としてしまった。

「あ、ゴメン…… 」