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リスティア異聞録 4.2章 ライラは生きたいと願った

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そして北国の長い冬が明けて春がきた。世界が目を覚まし、眠たげな目をこすりながら伸びをしている季節。ライラはルーベウスとリリアと共に雪解けを始めた高原部を散歩していた。この季節はまだ雪崩の心配があるので山に入ることは固く禁じられている。まだ、村で出来ることは少ないのだ。

雪がまばらに残る高原。草花が雪解けの水を含んだ土から顔を出し始めている。

「うーん、すっかり春って感じだねぇ」

「でも、まだ寒くないか?」

ルーベウスが大きな身体を少し丸めながら言う。ルーベウスは冬の前に引っこしてきたばかりで、この辺りの気候に慣れていないようだ。ルーベウス兄妹はログレスの生まれで暴政に耐えかねて両親と共にこのアラヴィス山の麓まで亡命してきていた。この小さな村の中、父親が元々この辺りの出身であるライラの家とは違って完全な余所者のルーベウスの家はなかなか馴染めないでいた。

ルーベウスにとっては、彼の家が余所者であることについて、全くこだわらないライラの家とライラは心の拠りどころであった。自然と彼女の元に訪れ、よく遊ぶようになっていた。今回の散歩もそんな中の一幕である。当のライラもルーベウス兄妹のことは好きであった。少しばかり大人し過ぎるのが玉に瑕ではあるが意味も無くはしゃぎ回る他の子供達がどうにも苦手で、それに比べれば共に居て過ごし易い相手であると思っていた。
「えっ、寒い? リリアちゃんも寒い?」

「うん。ちょっと。我慢出来ない って程じゃないけれど、ほら歩いてくる間にかいた汗が冷えて、ちょっと寒いかな」

ルーベウス同様、リリアも身体を丸めている。

「ここに居ても汗は冷えるし、風は冷たいし、足元ぴちゃぴちゃだし、もう、歩いて下っちゃう?」

「どうしよう…… でも、もうちょっと、ここの景色見ていたいかも」

風が吹き抜ける高原。まさに今、一陣の風が吹き抜けていった。残雪を撫でてツンと冷えた風が鼻腔の中の温度を奪っていく。身体の奥底から浄化されていくこの感覚がライラは好きであった。

「うん! ちょー どーでも良い!」

ライラが唐突に叫ぶ。ルーベウスとリリアがビックリして声をかけた。

「えッ? ライラなに?」

「ハハ、ハハハハハハッ! ねぇ、もう、どうでも良くならない? この景色見て、風に吹かれていたら、どうでも良くなるでしょ?」

ライラが二人を置いてけぼりにしてひとりで笑い続けていたらルーベウスが、

「うん! ちょー どーでも良い!」

と、先程のライラの真似をして叫んだ。追われた生家のこと、故郷に残した友達のこと、馴染めないこの村の人達のこと。もう、どうでも良い。人間なんて小さ過ぎる。ましてや、その人間が抱える思惑も争いも何もかもが小さ過ぎる。実にどうでも良い。

「うん! ちょー どーでも良い!」

リリアも叫んだ。そして三人でいつまでも笑い転げていた。