こらぼでほすと ケーキ11
シンは、方向感覚が少々鈍い。迷路も、いつも力技で抜けてくる。それを知っているレイは大笑いでツッコミだ。少し身体を疲れさせて、いつもより長めの昼寝をしてもらうつもりだ。夕方には全員が揃って、大騒ぎすることになっている。しばらく逢えないんだから、家族の時間は確保させてくれ、と、シンとレイが捻じ込んだ。やっぱり、こういう時間は大切だ、と、ふたりとも微笑んで頷く。
「よっし、レイ。シンとトダカさんをブッ千切るぜ? 」
「了解です。任せておいて下さい。」
「俺には、父さんという秘密兵器があるから、そう簡単には負けないぜ。」
「おまえ、私頼みなのかい? 困ったモンだな。」
「いいじゃんっっ。俺のコンパスになってくれよ。」
「そういうことなら、あまり飲んじゃいけませんね? トダカさん。」
ニールは素早く、トダカからウイスキーの水筒を取上げた。おいおい、と、トダカは文句を吐いたが、「お父さん、酔ってたらコンパスは正確に作動しませんよ? 」 と、言われて抗議は引っ込めた。
さて、同時刻の別荘の台所では、わぁーわぁーと大騒ぎになっていた。宴会には鍋だろうという大人組の意見は却下されて、チーズフォンデュとオイルフォンデュの準備がされていたからだ。
「悟空、それは大きすぎますよ? 三個に分けてください。」
「えーーーーー食った気がしねぇーよ、八戒。」
「キラッッ、ツマミ食いしちゃダメだって。」
「このパンおいしいんだもんっっ。僕だけじゃないよ? アスラン。ムウさんも食べてるのにっっ。」
「俺は夜勤明けなんだから大目に見てくれてるんだ。」
「手伝わないなら、居間へでも行ってください、鷹さん。」
「八戒、にんじんとじゃがいもが茹で上がったぞ。」
食材を小口切りにして、それにチーズを絡めるのがチーズフォンデュ、油でさっと揚げるのがオイルフォンデュだ。だから、食材は全て切り分けて湯通ししている。実際の動いているのと、チャチャを入れるためにたむろしているのがいるからややこしい。もちろん、これだけでは寂しいからオードブル的なものは別荘のスタッフで準備してくれている。メインぐらいは、こちらで準備しようと、午後から別荘にやってきて働いている。
「キラくん、エビばかり食べちゃダメですよっっ。」
そして、暇なキラと鷹辺りはチャチャというか、ツマミ食いして邪魔をする。多目に食材は準備されているが、それでもパクパクと食われたら足りなくなるし見栄えも悪いから、八戒が鋭く叱る。
「後で、カガリが持ってくるもん。」
「あれ、種類が違うと思います。アスランくん、カガリさんは? 」
「そろそろだと思うんですが。・・・・ほら。」
別荘の上空に差し掛かったジェットヘリのエンジン音が聞こえた。あちらからも食材を運んでくると連絡が入っていたので待っていた。オーヴとなると海産物がメインだと思うのだが、他のものもあるかもしれない、と、アスランも考えていた。オーヴの人間というのは、食べきれないほどの料理で接客するのが慣習だから、どういうことになっているか不安だ。ヘリの音が止んで、しばらくするとジェットストリームな護衛陣とカガリンラヴの人間が、発泡スチロールを八箱も運んで来た。
「ああ、やっぱり。」
中身を空けられて覗いたアスランが、うわぁーという顔をする。たっぷりすぎて余りそうな勢いの量だ。海産物、肉類、果物、野菜と多種多様なのが、どっかりと入っていたからだ。そして、当人が歌姫様と登場だ。
「参加しに来たぞー。」
「カガリ、多いっっ。」
「え? だって悟空がいるんだろ? 足りないぐらいじゃないか? 」
カガリにしてみれば大食漢というか食欲魔神の悟空がいるから、これぐらいかな? と、見繕ったらしい。それを標準レベルで計算すると、こういうことになる。
「アスラン君、とりあえず生魚は、こっちのスタッフさんにお願いして刺身にしてもらいましょう。それと貝類は焼いたほうがいいかな。」
今更、何を言ったところで現物があるのだから処理するほうが目下の急務だ。箱を開けて、ひとつずつの食材を確認して、別荘のスタッフと相談する。食べきれない分は、こちらでラボと別荘のスタッフで消費してもらえばいい。
「うひょおーすげぇー。カガリ、夜光貝持って来てくれた? 」
「それは、こっちに別口であるぞ。生は無理だから茹でてあるが。それでも当日限定だ。」
悟空は、以前に食った夜光貝をリクエストしていた。三蔵も美味いと言ったので、余分にもらって寺にお土産にするつもりだった。
「え? 明日まで無理か? 」
「冷凍しておけば保つけど、風味は落ちるな。」
「うーん、そうか。しゃーねぇーなー、冷凍しとくか。」
今夜は別荘に一泊の予定だ。そのためだけに帰るのも面倒だから、そういうことなら、そうしておくか、と、別荘のスタッフに頼む。
「おまえんとこのは別便で明日には寺へ配達されるぞ、悟空。あっちにも夜光貝はいれておいた。」
「なんだよ、早く言えよ、カガリ。んじゃ、これも食おう。」
そういうことなら、それも宴会で食べることにする。歌姫様から、宴会をします、というメールを貰って、カガリも予定をこじ開けてやってきた。忙しいが息抜きは必要だ。それに、キラのおかんのはぴば宴会となれば、カガリも参加したい。ここでは気取ったことも何もない。ニールという日常はカガリにとっても貴重だ。
「ラクスは? 」
「一緒に来た。ラボで虎と打ち合わせしてる。ニールは? 」
「シンたちと遠足してる。そろそろ戻るが、昼寝タイムだ。」
「カガリ、キラと遊んでやってくれ。こいつ、ツマミ食いばっかして、邪魔なんだ。」
「わかった。キラ、おねーちゃんの訓練に付き合え。八戒、うちの料理できるのも連れてきた。こき使ってくれ。」
「助かります。」
カガリは、言うだけ言うとキラの首根っこを捕まえてラボへと降りる。こちらに預けてあるストライクルージュと暁はカガリの機体だ。たまにやってきて、訓練だけはしている。国家元首様が実戦に出ることはないはずなのだが、日頃の鍛錬は必要だ、と、カガリは、それを実行している。
ラボでは歌姫様が虎とダコスタを前にして、打ち合わせをしていた。四月にプラントからエターナルを出す予定がある。表向きには、プラントから軌道ステーションへの歌姫様の移動ということになっているが、実際は地上から軌道ステーションへ引き上げた物資の積み込み、それから、廃棄衛星への物資の輸送などというものも含まれている。それらをユニウスセブンのあった場所での追悼イベントや月など大戦の激しかった場所での追悼イベントという名目で移動する。
「シンとレイのMSは、どうされます? 」
「バラして精密機器という名目で民間の輸送船でプラントへ送ります。すでに、その手配はして解体も完了しています。」
「それと民間の輸送船のみをチャーターしてある。それで物資は廃棄衛星と月に運ぶから、そちらの運用はシンとレイに任せるつもりだ。それに異論はないか? オーナー。」
「そうですね。輸送船のほうはシンとレイだけですか? 」
「人員不足でな。まあ、MSもあるから、どうにかなるだろう。」
作品名:こらぼでほすと ケーキ11 作家名:篠義