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まみむめももも
まみむめももも
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ある日の小話その1

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再び天井を見上げた。
危なっかしいなと開いた穴を確認した後、シェゾに視線を戻す。
先程から顔を顰めて押さえいてる腕が気になる。
「そこ、ぶつたけの?」
「そうだ」
「他は?」
「足を少しな」
「立てそう?」
問うと、長い足が動いてとんとんと地面を叩く。
「大丈夫そうだな」
「じゃあ、怪我したのは腕だけだね。良かった」
ほっとして力を抜くとすかさず怒声が飛んできた。
「怪我した相手に何が良かっただ!」
「そうだけど…あれだけの落石でそれだけで済んで良かったじゃない」
アルルはきょとんと首を傾げた。どうしてシェゾが怒るんだろうと不思議でしょうがない。
シェゾ自身にとっては運が良かろうが怪我をしたことに変わりはない。その上同じ状況だったというのに無傷でけろりとしている相手に心配されて当然というそこはかとない甘えのような期待がある。
それををさらりと流されたことで余計に腹を立てているのだとはアルルには想像もつかない。
「仕方ないなぁ。ちょっと見せて」
その上に仕方ないなどと言われて誰が素直になれるであろうか。
 
反射的にシェゾの中の苛立ちが跳ね上がった。
「うるさい。構うな」
飛び出たのは虚勢混じりの拒絶の言葉。
けれど、アルルはためらわずに手を伸ばしてきた。
いつもなら、こういうときは見捨てるような勢いでさらりと引き下がるのが常だったのだが、どうしたのというのか。
今日は少し気になっただけという理由はアルルの中にあってシェゾにわかるはずもない。
「いいから、ほら」
「な!おま…」
アルルの行動を警戒する間もなく、あっという間に腕の自由を奪われた。
袖を捲り上げられた素肌に触れる、自分とは違う暖かな体温と柔らかな感触。
何故か、触られた痛みよりも心地良い感触の方を強く感じ、意識した。
慌てて振り払うように腕を取り戻す。
「いいと言っているだろうが!」
突き放すように冷たく言い放つが、アルルは半ば聞いていないように明るく笑った。
「赤くなってるけど、折れてはいないみたいだから大丈夫だね」
「だから大丈夫ではないと言っているだろうが!」
「え。そんなに痛いの?」
不思議そうに聞き返され、そのまま視線が腕に注がれる。
何となく気まずさのようなものを感じ、つい勢いよく引っ込めてしまった腕に手を当て、庇ってみせた。
「ぐー」
すると脇から別の声が上がる。
アルルの視線がそちらに向けられ、釣られて見れば、そこにはしょんぼりと耳を垂らしたカーバンクルの姿があった。
「カーくん?どうしたの?」
「ぐーぐーぐー」
「え?まだ痛いの?」
それまでシェゾに構っていたアルルの注意がカーバンクルへと向けられた。
「ぐぐー」
「そうかー。でも困ったな、もう魔力がないし」
「ぐー」
仲むつまじくやり取りされる様子。
何となく取り残されたような感覚に襲われて、シェゾはむっつりと口を噤んだ。
どうしてか酷く面白くない。
ひたすら感じるのは疎外感。
片方の言葉が分らないので余計なのかもしれない。
不機嫌な視線の先で、考え込む様子だったアルルの顔がぱっと輝いた。
「そうだ!あれをやってあげる!」
明るい声で告げると、アルルはカーバンクルの耳を優しくなで始めた。
「いたいのーいたいのー飛んでけ!」
何やら呪文のように唱えると、ぱっと手をあちらの方へ振る。
その後、黄色い耳に顔を寄せたと思うとちゅっと唇をつけ、明るく笑った。
「はい、これでもう大丈夫?」
「ぐっぐー!」
そんな馬鹿なことがあるか。
頭の中で最大級の突っ込む声が響いた。
うってかわって元気そうに跳ねる黄色い生き物が酷く鬱陶しく感じられて仕方がない。
なんだそれは、ただの気のせいとか構ってもらいたかっただけの仮病の類だろうが。
苛々する。文句の一つも言ってやらないと気が収まらない。
止まらなくなった不満の声に押され、シェゾはぶすりと口を開いた。
「なんだ、その扱いの差は」
「え?」
きょとん、と不思議そうに見返され、更に頭に血が上った。
「差別しないでもっと平等に扱え」
思わず飛び出た言葉に自分でも後悔するが遅い。
アルルは一瞬固まった後、さっと身を引いた。
心持ちその頬が赤い。
「なにそれ!エッチ!」
「…は?」
思いも掛けなかった反応に、今度はこちらが言葉に詰まった。
「まっ…まさか、君にも同じことをやれとか…なんてこと言うのさ!やだ!シェゾのスケベ!変態!」
そう言いながらじりじりとアルルは後ずさる。
このままでは変態の汚名を更に広げられかねない勢いに、慌てて引き留めようと声を上げた。
「アホかっ!そんなこと誰が言った!」
「…じゃあ、どういうこと?」
じとりと疑わしそうな視線に、こめかみがひくりと反応する。
わからんのかこの鈍感、と怒鳴りたいのを押さえたが、それでも声が荒くなる。
「だから!もっと怪我人を労れと言っているんだ!」
「それならちゃんと見てあげたじゃないか。何が不満なのさ?」
心底不思議そうな顔に、今度は酷く脱力感が湧いた。
「もういい」
急にどうでもよくなって、溜め息をつきながら顔を逸らした。
そのまま不機嫌に口を噤む。
不思議とアルルはその場に止まり、こちらに習ったように黙り込んだ。
何とはなく沈黙が下りる。
もうもうとした土煙は次第に収まり、妙な静けさが辺りを支配して行く。
次第に見えない緊張の糸が張り始めようとしたところで、ふいにアルルが声を上げた。
「…ねえ」
「あ?」
シェゾは少し離れてしゃがんだ姿を横目で見やる。
見えそうで見えない、と本能が小さく囁いた。
声を掛けたあと、アルルは微妙な表情でふいと視線を逸らしてしまった。
一瞬、心の声でも聞こえたか、とこちらが内心で冷や汗した時だった。
ぽそり、と呟くような声が聞こえた。
「シェゾも…やって欲しいの?」
「は…?」
突然の思いがけない言葉に目を向いて固まった。
何を言っているのか本気で分からず、後から追いかけてきた理解に今度は思わず目を見開く。
いきなり何を言い出すんだと言いかけた、その言葉が喉奥で止まる。
変わりに、ごくり、と喉が動くのを自覚した。
再び重い沈黙が落ちる。
その間にも、様々な予測と可能性と単語がシェゾの脳内を駆け巡っては言葉となる前に途切れ、意味を成さずに消えて行った。
思考はしかと定まらず、一転で堂々巡りをしては戻るを繰り返すだけ。
段々考えるのも面倒臭くなってきたところでそれに白旗を揚げ、あくまで不機嫌な表情で口を開いた。
「…まぁな」
どうにでもなれ、と投げやりに答える。
再び訪れたのは微妙な間。
先程よりも更に重さを増した緊張の糸が痛い。
どうせ、すぐに変態だの何だのと文句をつけてくるんだろうが。
半ば開き直りな気持ちで、なんと答えてやろうかと先読みしながら答えを待つ。
けれど。
「…しょうがないなー」
沈黙を破り、やれやれとでも言いたげな声が聞こえて来て目を見開く。
続いて、じゃり、と砂粒と靴底が擦れる音が響いた。
ふわり、と甘い風がそよぐ。
直後に、つと腕に軽い重みが掛った。
何事だと視線を上げる。
すると酷く間近にあったのは、神妙そうなアルルの顔。
驚いた心臓がどくりと高く鳴るのを自覚した。
反射的に視線を取られた腕へと移す。