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うみものがたり

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 げほ、げほっ、と岩の上に横たえた人間が咳き込む声を聞きながら、ああ間に合ってよかった胸を撫で下ろした。
 『黄金色の人間』は海の中で気を失っていて、眠るように少しずつ底へと落ちて沈んでいっていた。『人間』は海の中では生きられないというから、この『人間』はもう死んでしまったのだろうかと不安に思ったけれど、それを抱えて菊は急いで岸まで泳いだ。岩の多い入り江に入り岩の上に『人間』を乗せて横たえ、体を揺り動かしたり叩いたりしたところ、ごほごほと口から水を吐き出し、息を吹き返したのだった。
 咳が落ち着くと髪と同じように黄金色の長い睫毛をぴくぴくと揺らしてから、翡翠のような瞳が菊を映す。菊は慌てて鱗のある脚を海の中に隠し、大きな岩の上から頭だけを少しだけだした。昔近所に住んでいた兄のような人が『人間』に人魚だと知られてはいけない、と口うるさく言っていた。ついでに『人間』は危険な生き物だ、とも。

「ここは……どこだ……?そういれば俺、海に落ちたような……助かったのか……?」

 海の水を吸って濡れてしまい体に貼りつく服を煩わしそうに触りながら、『人間』の彼は頭だけで周りを見回す。すると、彼は菊の頭を見つけたようで驚きながらも話しかけてきた。

「お前、もしかして俺を助けてくれたのか…?」
(これは、答えるべきなのでしょうか…?)

 返答に困って黙っていると、彼は「そうか、ありがとな」とだけ言って笑みを浮かべた。その笑みにほっとして菊も口元に笑みを浮かべると、彼は胸元を触って何かを探し始めた。

「あー……やっぱり取れなかったか。あの指輪を追って海に落ちちまったんだが、その指輪も守れなかったとなると、海に飛び込んだ意味がなかったな。あの指輪、母さんからの指輪がないと、今度の結婚式でまた周りからとやかく言われそうだな……。まあ、命拾いしたわけだし、どうせ政略結婚だしな。適当に作ればいいか」

 とても悲しそうな表情で笑う彼を岩の隙間から覗き見て、なぜか胸の奥がつきりと痛んだ。

「……指輪……ですか…?」
(もしかして、あのとき頭に当たったものでしょうか。それだったらきっと海の底のほうに)
「お、しゃべれるのか、よかった。ああ、指輪なんだが、どうも海に落としたみたいでな」

 まあ、失くしちまったのはもう仕方がないしな、とそういいながら彼は寂しげに笑った。
 思わず、探してきましょうか、と言おうとしたところで遠くに人の気配を感じた。彼を探しにきたのかもしれない。菊は慌てて海の中に潜り深みへと逃げた。あの『人間』は良い人のように思えたが、他の『人間』がそうとも限らない。まだ『人間』はよくわからない。
 けれど、彼の指輪のことは気になり、後日魚たちに協力してもらいながら彼が落ちたあたりの海を探したところ、少し離れた海の底で指輪らしき銀色の輪を見つけたのだった。

作品名:うみものがたり 作家名:itsuki