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こらぼでほすと ケーキ12

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 どうして除け者にするんだ、と、キラは遠足に参加したがったのだが、たまには家族で、と、シンが主張した。これから、しばらくプラントへ遠征するから、レイがニールにべったりと甘えたがっていたからだ。他の年少組がいるとレイは遠慮するから、シンがキラの参加は認めなかったのだ。アスランが、そこいらを説明して、キラは渋々、参加を取りやめたが、諦めるもつもりはないだろう。
「まあ、そりゃ、遠足なんて日常的なものはやりたいだろうさ。」
 あはははは・・・と、鷹は大笑いだ。これから、非日常的な世界が大半になるとわかっているのだ。日常担当のニールと一緒にいるのは、何よりの癒しになる。カガリが、わざわざ遠征してきたのも、そういう意味のものだ。なんの利害関係も敵対関係もない『吉祥富貴』での宴会は、カガリにとっても心から穏やかに楽しめる。




 歌の練習は、一応したのだが、原語で歌うのは難しい。だから、一番は原語で歌姫が、二番はスタンダードでカガリと歌姫、三番は全員でスタンダードということになった。それでも歌えないのはハミングで付き合え、と、歌姫は命じた。さすがに楽団は呼べないから、レイが伴奏を担当する。アイシャが先に走ってきて、サムズアップすると、レイが伴奏を始める。居間にキラが腕に絡まっているニールが現れる頃に、歌姫様の一番が始まる。



 夏の名残のバラ ひとつ寂しく咲いている
 他の花たちは既に枯れ散り
 近しき花も芽も消え失せた
 美しいバラ色を思い起こせば
 たた溜め息をつくばかり


 原語で間違うこともなく歌姫様は歌う。それで、ニールの足は扉に入ったところで止まった。少し間奏が入り、次に歌詞を手にしたカガリと一緒に歌姫様が、さらに歌う。


 あなたを独り残しては逝かない
 その姿に想い募る
 美しきものと共に あなたも共に眠らん
 ベッドの上に撒き散らした あなたの花びら
 バラは すでにあなただけ 他には居ない


 そして年少組も歌詞カードを手にして、間奏の合間に準備する。歌えなければ、適当にハミングでもいい。歌詞は歌姫様が歌えるからだ。


 すぐに私も後を逝くだろう
 あなたがいなくなり
 愛の光輪から宝石が零れ落ち
 真の心が見えなくなり
 愛するあなたがいなくなったら
 この荒涼たる世界で
 誰がひとりで生きられようか


 そこまで歌い終わると静かに、伴奏も終わる。全員がお辞儀して、今度は明るい音楽がレイのピアノから流れ始める。それは、定番のバースデーソングをアレンジしたものだ。こちらは全員笑顔で歌う。最後の歌詞に入るところで、イザークとディアッカが大きなケーキをテーブルに配置してロウソクをつけた。キラが茫然と聞いていたニールの腕を取って、その前に案内する。
 ロウソクは大きなのが二本、細いのが八本。歌が終わると、「ママ、吹き消して。」 と、キラが合図する。言われるままに、ニールが吹き消すと、ようやくピアノは鳴り終わり、拍手が響く。
「おめでとう、ママ。」
「え? あの、俺の誕生日って。」
 すでに誕生日から三週間近く経過している。
「ママがお風邪を召しましたので延期しておりました。おめでとうございます、ママ。」
 ちょうどよかったとも言える。お陰で今年は、全員で歌を覚える時間が用意できた。ラクスは、アイルランド民謡の「夏の名残のバラ」 という歌を選び、原語で練習した。これが嬉しい贈り物だと、ニールからリクエストされたからだ。カガリも歌いたいというので二番をスタンダードに訳した。ただし、歌詞は少し変えた。あなたが消えたら生きていけないのだというメッセージを含ませた。原語のほうも、歌詞は変えてある。
「ラクス、それ。」
「ちゃんと歌えておりました? もう一度、お聞きいただけますか? ママ。ちゃんと原語で三番まで練習いたしましたので。」
「とりあえず乾杯してから、ラクスのミニコンサートにしよう。ニール、おめでとう。私の歌もいかしてただろ? 」
「僕も、ちゃんとハミングで参加してたんだよ、ママ。」
「民謡は素朴で心に響きますね、ママ。うまく演奏できていたでしょうか? 」
「俺、久しぶりに歌なんて覚えた。おめでと、ママ。」
「ねーさん、俺、あんま歌は得意じゃないからハミング。ごめん。」
 そんなわいわいと言い募る言葉に、ニールはくしゃっと顔を歪めた。懐かしいことより、そんな贈り物をされたことが嬉しかったからだ。アスランとハイネ、ダコスタが、全員のグラスにシャンパンを注ぎ準備する。とりあえず、お祝いの乾杯をしないと始まらない。
 はい、持って、と、アイシャにグラスを握らされて、周囲から、おめでとうコールの後に乾杯される。ニールが一口飲むと拍手だ。
「ケーキは、後のお楽しみだから一端下げるぞ。ニール、俺が選んだ最高のケーキだ。ぜひベストの状態で味わってもらいたい。」
 イザークが、そのホールケーキを持ち上げる。真っ白なケーキにアイルランドの意匠模様が緑で真ん中に描かれた綺麗なケーキだった。それも、イザークが注文した逸品だ。
「とりあえず、俺から。いつもありがとう、ママ。」 と、悟空が包みを渡す。中身はふかふかのスリッパだ。寺では坊主で、すでに履いている色違いだ。
「次、僕とアスランね。これ、寝る時の温かグッズ。いつもありがとう、ママ。」 と、キラが手渡すのは電気毛布と羊の抱き枕だ。
「俺とシンは本。いつもありがとう、ねーさん。」 
「お気に召していただけるといいんですが。いつもありがとう、ママ。」
 と、シンとレイは一冊ずつの本だ。
「私は、歌と花にした。おめでとう、ニール。これからも弟共々よろしくな。」 と、真紅のバラを手渡すのはカガリ。
 最後に、歌姫様が差し出したのは、アイルランドの歌集だ。
「リクエストいただければ、どれでもママのために歌います。いつもありがとう、ママ。」
 たくさんの贈り物を受け取ると、ニールは少し俯いて、それから微笑んだ顔で周囲を見渡す。先にあるものが、かなり苦しいのだが、それでも前を向いていなければならないな、と、内心で吐き出した。
「ありがとうさん。こんな盛大なのは嬉しいけど申し訳ないな。」
「一年に一度くらい、僕らがお礼を言うのは必要だと思うんだ。だから、今日は無礼講。」
「そーそー、いつも、俺、目一杯お世話してもらってんだからさ。こういう、お礼を言う日はあったほうがいいと思う。」
 キラと悟空が代表して、そう言うと年少組は一同で大きく頷く。そこへ、八戒がシャンパンの瓶を手に現れる。
「たまには、何にもしないで世話されてください、ニール。・・・・さて、オーナー、ミニコンサートをお願いできますか? 」
「ええ、喜んで。レイ、伴奏をお願いします。」
 居間のソファに各人が落ち着いて、ピアノの前に歌姫が立つ。昨年も歌ってくれたアイルランドの子守唄の曲が、ゆっくりと奏でられて、贅沢な贈り物の歌声にニールは、殊の外嬉しそうに聞いていた。