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Final Fantasy 6 ~すべてが始まる前~

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 部屋を出る瞬間に彼はセリスに一瞥をくれたが、彼女の目がどこか遠いところに向けられているのを見逃さなかった。
「……セリス、やりますか……ねぇ?」
 ドアが閉まってからケフカは口を開いたが、ガストラの顔を見て言葉は途中で詰まってしまった。
「まさか……試したんで?」
 顔色を伺うようにケフカが最後まで言葉を発するのを待たずガストラがうなずく。
「あなたも相当あくどいお方だ」
 そうは言いつつも、ケフカの顔に笑みが生まれる。
 彼としては、セリスが裏切ってくれればドマへの指揮も任せてもらえるし、位も上がるであろうし万々歳である。
 もっとも裏切らなかったとしても、なんら彼に損は無い。とりあえずお楽しみが増えたというわけだ。

 呆然としているセリスをしばらくそっとしておいたレオだが、見かねたのかセリスの肩をぽんと叩いた。
 我に返ったかのように、セリスがレオを見上げる。
「まさか裏切るつもりじゃないよな?」
 レオの言葉にセリスは黙り込む。
「ダメだ。確かに今回のはりターナーの連中も黙っていないかもしれない。下手したら全面戦争にもなりかねない! でも皇帝にはきっと何か考えがあってのことだ」
 肩をつかんで力説するも、セリスは固く口を閉ざしたままだ。
「……殺されるぞ」
「だって見たじゃないか今。簡単に人一人殺したじゃないか。皇帝はレオが思ってるほど高徳な人間ではない。もう信じるのも疲れた」
 レオが黙っているとセリスが続ける。
「それに、もし殺されたって悔いはない。悲しむ人もいない」
 彼女の言葉に、レオは首を振る。
「俺は悲しい。シドだって悲しむぞ」
 しかしセリスの顔つきが変わることは無い。
 18歳の少女にしては、何と酷な試練であろう。若くして、どうしてこんなにも冷静に死を見つめられるのか。
 彼女の肩に置いていた手を離し、レオは所在無げに視線を下に落とした。
「分かった。俺からも皇帝に言いにいこう」
 彼の言葉に、セリスは顔をあげる。
 そんな事をしたら、レオの将軍生命も危うくなる。
 しきりに反論するが、レオはがんとして聞こうとしない。
 懇願するセリスに、レオは真面目な顔でこう言った。
「じゃあ裏切るような真似はやめるか?」
 重たいほどの沈黙。
 皇帝のことを過信しているとは言え、レオの人となりはセリスにもよく分かっている。
 彼のような人までいなくなってしまったら、帝国がどうなるかは目に見えていた。
 彼に人望があるから、兵士達は彼を慕い、下手な行動には出ない。
 すなわち、彼のおかげでむやみやたらに町が襲われたりすることはないわけだ。
 彼を死なせるわけにはいかない。
 セリスの頭の中で決断が出た。
「分かった。皇帝に従うさ」




 マッシュがバルガスを捜し求めるコルツ山。
 その奥に、反帝国組織リターナーの本部はある。
 そこの会議室のような部屋で、今数人の男達がテーブルを囲んで話し合いを行っていた。
「フィガロが我らと組みたがっているのはまことか?」
 ひげですっかり隠され、表からは全く見えない口をもごもごさせ、決して若いとは言えない男が言葉を放った。
 彼の名はバナン。リターナーの統帥である。
「ホントですよ。俺が直接王様に聞いてきましたから」
 両腕を頭の後ろで組み、自身の青いバンダナを指先でいじりながら男が答えた。
 年は二十代後半といったところか。
「ふむ。我らが表立って手を組む日も近いということか」
 バナンの言葉に、部屋にいた人々が歓声をあげる。
 それもそのはず、フィガロの高度な機械文明は、必ず帝国との対峙に戦力の要となってくれるはずだからである。
「そういえば、ロックよ。帝国はついに魔道の力を取り戻したそうじゃな」
 情報を促すように、バナンは先ほどの男―ロック―に答えを求めた。
「生まれながらに力を持つ少女……のことですか」
 懐からメモ帳のようなものを取り出し、ロックはすらすらと読み上げる。
「帝国兵50人をたった3分で皆殺しにしたようです」
 再び、部屋にざわめきが起こった。
 例えこちらが束になって向かっても、たった一人の少女のために全滅する恐れがあるという事だ。
 これをふまえて話し合いは進み、もっと戦力をつけようという結果に達した。
 それにはナルシェを味方につけるのが一番手っ取り早い。
 ナルシェは帝国に立ち向かうだけの力があるからだ。
 その自治力の高さゆえに、リターナーに加わることを拒否してきたが、帝国が力をつけた今、そうも言っていられない。
 もう一度誘いをかける価値は十分にある。
 バナンは、とりあえずロックにナルシェ付近での情報収集を引き続き頼むことにした。
 彼は世界をまたにかけて旅するトレジャーハンターだから知り合いも星の数ほどである。
 その中でも、フィガロ国エドガー王と知り合いであるというのは、リターナーに多大なる利益をもたらした。
 帝国の目が光る中で、彼は両者を繋ぐパイプラインの役割を果たしているのである。
 人々に見送られる中、ロックは颯爽と飛び出していった。



 ちょうどその少し前。
 帝国内のホールには、大勢の人間が詰め寄せていた。
 なぜならば、噂の魔道少女の姿をいよいよ本日お披露目すると皇帝が言ったからである。
 ざわめきが聞こえる隣の部屋に、ガストラ、少女、そして将軍三人はいた。
 セリスは、虚ろな目でどことも分からないところを見ている少女を眺めた。そして視線は自然と頭の飾りへと向けられる。
 少女は皇帝の命令に従い魔道アーマーに乗り込んだ。
 ドアは開き、5人は前へと進み出た。
 その場所はちょっとした高台になっており、兵士達を見下ろすことが出来る。
 皇帝が少女の耳に向かって何かを呟くと、彼女は魔道アーマーの機会音を出しながら、下の兵士達がいる場所へと下りていく。
 ケフカは一人ニヤついた顔で眺めているが、もちろんセリスとレオはこれから起こることは知らされていない。
 初めは少女を近くで拝むことが出来ると喜んでいた兵士達だったが、次第に顔色を変え始め、一人一人と後ずさりを始めた。

「やれ!」

 ひときわ大きな声で皇帝が叫ぶと同時に、少女の周りに眩いばかりの光が集まり、それは一挙に兵士達に押し寄せた。
 醜い叫び声と共に倒れ行く兵士を目の当たりにしてセリスとレオが皇帝の方を振り返った。
 そんな二人の視線に気づいているのか気づいていないのかは定かではないが、ガストラは黙ったままその光景を見つめている。
「ヒッヒッヒ そうだ全てを焼き払うのだ!」
 その隣でケフカがけしかけるように大声をあげた。
 倒れこむ兵士を踏みつけ、なおも魔法を放とうとする時セリスが止めるように叫んだ。
 しかし少女の魔法は止まらず、兵士達の断末魔が響き渡る。
「今はわしの声にしか反応せぬ」
 セリスはもう一度ガストラを見た。これが操りの輪。少女の実力。
 きっかり3分経ったところで、ガストラは少女に止めるよう指示した。
 そして広間全体に響き渡るように
「ガストラ帝国は魔道の力を復活させた! 選ばれた者のみが使うことが出来る神聖な力だ」
 と叫んだ。一呼吸置いて、再び言葉を放つ。