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サヨナライツカ

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「あの時、俺が言ったこと、憶えてるか?」
過去に意識を飛ばしていた風丸は、綱海の言葉に一瞬反応が遅れた。
「あ、ああ……。『別れるなら、いまよりも絶対幸せになること』……だろ?」
「そうそう。自分で言っておいてなんだけど、オレ自身いまいちよくわかってないんだよな。幸せって、そう感じたら幸せなんだから、それ以上もそれ以下もねぇんじゃないかなって。だから、あの時お前が別れを告げた理由もずっと理解できなかった」
「そうか……」
「オレ、あれから沖縄に戻ってずっとお前の言葉の意味を考えてた。でもやっぱりわかんねぇままで、ぶっちゃけお前に腹が立ったこともあった」
綱海の夜の海の波のように静かな言葉を風丸はただ黙って受けとめた。
「お前はオレとこれから先の道がねぇって言ってたけど、オレはお前とならそんなの乗り越えて、道なんていくらでも作れると思ってたんだよ。……でも、お前の意志はかたくて、オレはお前の考えを変えられなかった。そうしたら、つまりそういうことなんだなって気づいた。……オレとじゃあ、お前は幸せになれねぇんだって。あの時が幸せでも、それから先もずっと同じ幸せをお前に与えられる力はオレにはなかったんだって思い知らされた」
綱海は左手で額を支えて顔をうつむかせていて、風丸には表情がよく見えなかった。彼はどんな顔をしてこの言葉をつむいでいるのだろう。
「なんつーかよぉ、あの時のオレは、勢いと情熱だけの恋をしてたんだろうな」
そう言って、綱海はおし黙った。ちいさな部屋に重く長い沈黙が降りる。綱海は額を抱えたままじっと動かず、心配になった風丸が声をかけようとした時、綱海の顔がようやく上がった。まっすぐな視線が風丸を捕らえる。
「オレ、結婚するんだ」
綱海の短い言葉が、じわりと風丸の体のどこかに刺さって、深くえぐりこんできた。
「……そう、なんだ」
予想はしていた。突然の来訪。突然のメール。でも、どこかでもしかしたらというわずかな望みを持っていた。それが音も立てず、風に吹かれた砂のように流れて消えていく。
(自分から手放しておいて、勝手な希望持って、本当自分勝手だ)
風丸はそう自己嫌悪して軽く唇をかんだ。そして一泊置いて、顔いっぱいに笑みを浮かべた。いま、自分がすべきことはただひとつだった。
「おめでとう、綱海」
「さんきゅ」
そして、空になりかけたジョッキを掲げて乾杯する。綱海と、顔の知らない誰かの未来に。
「どんな人? どこで出会ったんだ?」
「沖縄でサーフィンのインストラクターしてた時によ、向こうが東京から旅行に来てて知り合ったんだ。ちょっとのんびりしてる感じだけど、まぁ、可愛いよ」
「へー。あ、今回東京に来たのはその子の両親に挨拶とか?」
「うん、まぁそんなとこだな……」
「うわー、ドキドキするだろ。向こうのご両親に『娘さんをください』って言うんだ」
「からかうなよ。いまだってすっげー緊張してんだからよ」
「じゃあ、俺で予行演習でもするか?」
「なにバカ言ってんだよ」
先までの沈黙の空気が嘘のように会話に花が咲いた。まるで昔のふたりに戻ったように、自然に時が流れた。

作品名:サヨナライツカ 作家名:マチ子