二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

サヨナライツカ

INDEX|4ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 


居酒屋を出て、駅のホームに立つ。電車は出発したばかりで、内周り外周りとともに到着までまだわずかに時間があった。
「オレ、こっちだから」
「そっか。じゃあ、ここでお別れだな」
「おう。今日は本当悪かったな。会えて良かったよ」
「気にすんなって。俺も、会えて良かったよ」
ホームに風が吹く。冬の冷たさを運ぶ風ではなく、春の訪れを感じさせる緩やかな風だった。
「……あのさ」
「なに?」
「お前、いま幸せか?」
綱海の言葉に、風丸はすぐに返事ができなかった。
「……うーん、いまは彼女とかいないし、すっごく幸せかって言われたら迷うな。でも、仕事はやりがいがあるし。特に困ったこともなく元気に過ごせてるし。……ま、俺もお前みたいな幸せをぼちぼち探していくよ」
「そっか……」
車掌のアナウンスと電車到着のベルがホームに響いた。別れの時が近づいてくる。風丸には綱海に聞きたいことがまだたくさんあった。言いたいこともたくさんあった。それなのに、なにひとつ言葉に出てこなかった。
(もう、言うべきでも聞くべきでもないのかもしれない)
向き合う綱海の背中の向こうに、電車が見えてきた。
「風丸」
「なに?」
「オレ、やっぱりまだよくわかんねぇんだ。幸せに限度があるとか、上下があるとか。でも、これだけはわかる」
「……なに?」
「オレ、いますっげぇ幸せだよ」
けたたましい音を立てて、ホームに電車がすべりこんで来た。綱海が電車に乗りこむ。見送るために、風丸は電車の出入り口の前に立った。
「……じゃあな」
「うん。気合い入れて彼女のご両親に挨拶してこいよ」
だからからかうなって。綱海のすこし照れた台詞は出発ベルに重なった。
ドアが閉じかける。綱海が手を振る。風丸も手を振った。
ドアが閉まった。ドアの窓ごしに、綱海がなにか言っていた。短い言葉は口の動きだけでもはっきりと届いた。
電車がゆっくりと動き出す。綱海の姿が流れて、あっと言う間に見えなくなる。
しばらくして、風丸が乗る予定だった電車も到着した。しかし風丸はその場に立ちつくしたままで、電車はホームから走り去っていった。

作品名:サヨナライツカ 作家名:マチ子