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幸せになろうよ

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「いや、いいよ。どうせ仕事中とか指輪できないし。これはチェーンでもつけて、首から下げておくよ」
風丸の意見に、綱海は頬をふくらませた。
「えー、ずっとつけてろよー」
「でも、いきなり指輪つけたら周りにどうしたんだとか聞かれるし……そしたら俺、どう答えればいいんだ?」
「むー……。じゃあ、せめてオレと一緒にいる時は指にはめててくれよ」
綱海の妥協案に風丸はすこし考えて、了承した。
「わかった。じゃあ、今度一緒に店に行こうな」
風丸の返事に綱海はとても満足したように笑うと、ポケットから次は折り畳まれた紙を取りだした。
「なにそれ?」
「ふっふっふ。じゃーん」
綱海は紙を開いて、それを風丸の目の前に突きだした。その紙は、テレビドラマでよく見かけたことがあるものだった。
「……お前、それどうするつもりだよ」
風丸はすこしあきれた。朱色で彩られた紙には、はっきりと「婚姻届」と書かれていた。
「役所には提出できねぇけどさ、まぁ気分的にはってことだよ」
「しわくちゃじゃないか」
風丸は楽しそうに話す綱海から婚姻届を奪い取って、すこしでも皺を伸ばそうと膝の上で紙を伸ばした。
「お前って、本当こういうところいい加減なやつだよな」
「まぁ、細かいことは気にすんなって。ほらほら、名前書いて書いて」
そう言って綱海はペンを取りだした。
「ここで書くのか? 台になるような物ないぞ」
「じゃ、これ使って」
次に取りだされたのは、ホテルのパンフレットだった。厚い紙を重ねて作られたそれは、台紙の役割を十分に果たしそうだった。
(用意のいいやつ……)
普段からこうならいいのになと、風丸は心中でこっそり思って、気づかれないようにちいさく笑った。そして、名前を書こうと婚姻届に目を落として、動きが止まった。
「……綱海」
「なになに? 書けたか?」
まるでプレゼントの包みを開ける前の子どものようにわくわくとしている綱海に、風丸は婚姻届を突きつけた。
「どうして、夫欄にお前の名前が書いてあるんだ……?」
「夫になる人」の欄には、でかでかと見慣れた綱海の字がはっきりと書かれていた。
「へ?」
思いもよらなかった風丸の言葉に、綱海の口から間抜けな音が飛びだした。
「なんで、俺じゃなくてお前が夫なんだよ!」
「……いや、だって、それは、なぁ?」
「『なぁ?』じゃねぇよ! なに勝手に決めてんだよ!」
「えぇー、どうでもいいじゃねぇかよそんな細けぇこと」
「じゃあ、いますぐ書き直せ」
「それは嫌だ」
「なんだよ、お前にとってはどうでもいいことなんだろ!?」
「オレは絶対、夫じゃなきゃ嫌だっての!」
「俺だって夫じゃなきゃ嫌だよ!」
「あー、もう! 本当、なんでお前ってそう頑固なんだよ!」
「お前こそなんでそう勝手なんだよ!」
夜の海の静けさは、ふたりの不毛な騒ぎに完全に打ち消されていった。月は穏やかに夜の闇を照らして、ふたりを見下ろしていた。

作品名:幸せになろうよ 作家名:マチ子