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クリスマス連続短編集

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③立波「ネコミミクリスマス」



「もうっ、俺だって嫌いだよ、ポーランドのことなんか!」
 一人で叫び、むなしくなってへたり込む。
 どうしてこんなことになっているのかというと――

「ポーランド、来たよ。開けて」
 こんこんとドアをノックする。
「やだし」
「えっ!?」
 返ってきたまさかの答えに、俺は呆気に取られた。
「ど、どういう……ことなの?」
「今年のクリスマスはハンガリーと一緒に過ごすって決めたんよ」
 ちょっ、クリスマスに捨てられるとか切なすぎるんですけど!
「ち、ちょっと待ってよ! どうしてそんなことになったか分からないけど、とりあえず何か誤解があると思うんだ! だから……」
「マジもうリトの話聞きたくないし」
 そう言い残して、ポーランドの気配はドアの前から消えた。

「あぁもう思い出すだけで腹立ってくる! もうポーランドなんか……っ」
 ……嫌いになれるわけないじゃないか。
 俺には、ポーランド以外クリスマスを過ごしたい人なんていない。
 頼めば、きっとエストニアもラトビアも一緒に過ごしてくれるだろうし、アメリカさんだって俺のうちに来なよと誘ってくれるはずだ。あの人の性格的にも。
 それでも、僕が過ごしたいクリスマスは、ポーランドと一緒のクリスマス。それだけなんだ。
「電話、してみようかな……」
 出てくれないだろうな、と半ば諦めの気持ちでコールする。
 呼び出し音は、四回目の途中でぶつりと切れた。俺はがくりと肩を落とし、ケータイをしまった。
「プレゼント、どうしよう……」
 買った時の記憶がよみがえってくる。ドイツさんの家に買い物に来ていた時、そのご本人とばったり会った。
『イ、イタリアにクリスマスプレゼントを、と思ってな』
 その手に握られているのは、ちょっと深い緑色をしたマフラー。
『俺もです。ポーランドに贈ろうと思って。あと、イタリアさんならこっちの明るい色の方が似合うと思いますよ。あぁ、勝手な意見なんで聞き流して下さい』
『いや、すまないな。参考にさせてもらう』
 そう言ってマフラーを見比べているドイツさんの目はとても真剣だった。
『指輪とかにはしないんですか?』
 と俺がうっかり訊くと、ドイツさんは顔を赤くして、
『そっ、そういう物はっ、俺の気性に合わないだろう?』
 早口でつぶやくと、色の明るい方のマフラーを手に取った。
『こっちをプレゼントしようと思う。……助言に感謝する』
『あ、はい。それじゃ、良いクリスマスを!』
『あぁ、良いクリスマスを』
 ドイツさんと別れ、俺は男性向けのアクセサリーの棚をのぞき、ポーランドの最近のブームはペアルックらしいので、色違いで買った。
「けど……受け取ってもらえないよね、あれじゃ……」
 はぁ、とため息をつく。
 そのままどのくらいそこに座り込んでいたんだろう。膝に顔を埋めていた俺の隣に、誰かがすとんと腰を下ろした。
「何でそんなに落ち込んでるのかな、リトアニア?」
 がばっと顔を上げると、隣にはロシアさんが。
「ろ、ロシアさんっ? 何でこんな所にいるんですか!?」
「うふふ、今日はちょっとフランスくんの所に用事があってね。家に帰ろうとする途中だったんだ。で、リトアニアはどうしたの? 僕の家では一月一日にも七日にもクリスマスを祝うけど、こっちじゃ今日だけでしょ。ポーランドと過ごすんじゃないの?」
「いえ……」
「あれ? 何か訳ありなのかな?」
「そう……なんでしょうか。なぜかポーランドに嫌われちゃったみたいで……」
「ふーん。じゃあリトアニア、今日僕の家に来ない? クリスマスっていう雰囲気はあんまりないけど、暇でしょ?」
「えっ、いや、それは!」
 慌てて断ろうとした時、俺のケータイがけたたましい音を立てて鳴った。ポーランドからの着信だ。
「出ないの?」
 呆気に取られた俺の手からケータイを取ろうとロシアさんの手が伸びる。
「で、出ます!」
 噛みつくように言って、通話ボタンを押す。聞こえてきたのは、ポーランドの大声だった。
『リト、何でロシアなんかと話してるん!?』
「えっ!?」
 何でかけてきたの? と訊こうとした俺は、再び呆気に取られることになった。
「な、何でロシアさんと一緒だって知ってるの?」
『そんなこと今はどうでもいいんよ! それより早くロシアから離――』
「もしもしポーランドくん?」
 ケータイを奪い取ったロシアさんが楽しげにしゃべり出す。俺はケータイから漏れるポーランドの声に耳を澄ませた。
『な、何だし』
「ごめんね、君を直接狙ったわけじゃないんだよ?」
『やっぱりロシアだったん!?』
「でも、ふふ、すっごく似合ってるじゃない」
『ふっ、ふざけんなし! これのせいで今年のクリスマスは台無しになってるんよ!』
 俺の息をのむ音が聞こえたのか、ロシアさんはこっちをちらりと見てから会話を続けた。
「それは君が恥ずかしがらなきゃいいだけの話じゃないかな?」
 そしてふふふと心底楽しそうな声でケータイを俺に返すと、さっさと歩いていってしまった。少しためらってからケータイを耳に当てる。
「……ポーランド? 今の話は……」
『ロシアは?』
「えっ? あ、もう行っちゃったよ」
『ならいいし。……リト』
 いつにもなく真面目な声に俺の背筋が伸びる。
「な、何かな。ポーランド」
『今からならうちんち来てもええよ?』
「え! じゃなくてっ、うん、行く! 今から行くよ! 二十分もあれば着くからね!」
『その時間過ぎたらポーランドルールで家に入れてやんないしー』
 いつもの調子に戻ってきたな、と思いながら電話を切る。
 運良くその場を通りかかったタクシーを捕まえ、運転手を急かしてポーランドの家に到着した。玄関の前で二回深呼吸してからベルを鳴らす。はーい、とポーランドではない声がした。
「思ったより早かったわね、入ってちょうだい」
「あ、は、ハンガリーさん……」
 そう言えば、ハンガリーと一緒に過ごすからいらないって捨てられたんだっけ……。今さら不安に心臓を鳴らしながらリビングに入り、
「ポーランドっ!」
 驚きに思わず声を上げた。
「どっ、どうしたのその、耳!」
 ポーランドの頭の上には、かわいらしい猫の耳がくっついていた。
「どうしたもこうしたもないしー! リト、俺どうしたらええの? 猫になんかなりたくないんよぉぉ」
「わぁぁぁ待って泣かないで! 事情が全然分かんないんだけど、とりあえず落ち着こうよ、ねっ」
 クリスマス当日に恋人を振って、午後にはその元カレの腕の中で大号泣!?
 駄目だ、ポーランドのフリーダムさにはついていけない……。

 俺の腕の中にいるポーランドが一向に何も話さないので、代わりにハンガリーさんが事情を説明してくれたところによると、今朝ポーランドが目を覚ましたらなぜかネコミミが生えていたらしい。しかも、
「うわ、ほんとに動く……」
 俺が耳をそっと撫でると、その動きに反応してネコミミがピクピクと動いた。目の前で起きていることなんだけど、信じられない。
「物を聞く耳はこっちなんよ。ネコミミは何も聞こえんし」
 と髪をかきあげて人間の形の耳を指すポーランド。
「でもネコミミも触られたりするとそれが分かるんよ。もう訳分からんしー」
作品名:クリスマス連続短編集 作家名:風歌