クリスマス連続短編集
いつもの表情といつもの口調。けれど、その奥に恐怖の感情が見え隠れしていた。
――これがあの人の呪いなら本当に猫になってしまうかもしれないんだから。
「ロシアのやつ、ほんとありえんし! リトもそう思わん?」
「うん、そうだね」
こんな時だからこそいつものように振る舞おうとするポーランドの手をそっと握って、俺はゆっくりと頷いた。そこで一つ聞きたかったことを思い出す。
「そういえば、なんだけど。何で俺がロシアさんと一緒だって知ってたの?」
答えを返してくれたのはポーランドではなくハンガリーさんだった。
「簡単なことよ。ロシアが怪しいんでしょ? だったら盗聴器でも仕込んでおけばいいじゃない」
「えっ!? あの人に盗聴器仕込んだんですか!?」
「えぇ。もう見つかっちゃったみたいで反応は途切れてるんだけどね。さすがにあの電話すれば気付かれるかぁ」
「いや、でも、あの人に気付かれないでそんなもの仕込むって……」
「あら。こう見えても私、そういうこと割と得意なのよ。小さい頃は男に混じって鳴らしてたしね」
「いや、確かにそうですけど……」
納得できない、というか信じられなくて反論を返す俺の袖を、ポーランドがつんつんと引っ張る。
「リトー、マジ腹減ったし」
「あらあら、私ったらお邪魔しちゃってるみたいね?」
二人っきりにしてあげなきゃ。そう笑ってハンガリーさんが部屋を後にする。
「お幸せにねー」
と、彼女がいなくなるのを待って、ポーランドは俺に全身を預けてきた。変なところで人目を気にしすぎだと思う。
「なぁリト、もしうちが完全に猫になったとしても、好きでいてくれるん?」
「……俺はどんなポーランドでも大好きだよ。もしそれが本当にロシアさんの呪いだったとしても、絶対に俺が解くよ! だから安心して」
にこりと微笑みかけると、
「リト……」
じわりとポーランドの目に涙が浮かんだ。
「俺も大好きだしー!」
ぎゅっと抱きつかれて、ばったり後ろに倒れ込む。
「今日はゆっくりご飯食べて寝て、明日から呪いを解く方法を探そっか、ね」
「うん。そうするし!」
腕の中のポーランドは確かにポーランドそのもので。俺は手の中のかわいい彼を絶対に失いたくない、とばかりに抱きしめ返した。
作品名:クリスマス連続短編集 作家名:風歌