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「君は中立の立場ではなかったか?」
「そうだ。だが、俺はどちらにも死んでほしくはないから……」
 市民にも被害を出したクーデター軍のことは許せなかったのだ。トツトツと語る刹那を見上げるグラハムの表情は、探るようでもあり、思案しているようでもあった。
「そういうことなら、まぁ、受け取っておこうか。……しかし、わざわざそれを言うために忍び込んだのかね? 君に食らったパンチがまだ痛むんだが」
 グラハムは軽く、みぞおちの上あたりを掌でなでている。さらなる立場の弱さに、刹那は何をどう説明したらいいか、頭をフル回転させた。グラハムはこちらを気にせず、話を続けている。
「さっきも言ったが、君は軍人を嫌っているし、だから気絶させられた瞬間、本当に私は死んだと思ったのだよ。……もしくは、君に乱暴でもされるのかと」
「そんなことはしないと言っただろ! あれは、だから、その、手違い、だ」
 会えなくなる前に会いたかったのだ。会ってどうしたいかを、考えていなかっただけで──。
「礼を言いたかっただけなら、こそこそ忍び込んだりしないで、正面から尋ねてくればいいだろう。だいたい君、どうやってここまできたのだ? いや、聞くだけ野暮かな、これは」
 忍び込む手段しかないのだから、検問も同様だと、グラハムは勝手に悟ってくれたようだ。片手を顔にやって、深い溜息をついている。
「アンタに会うための、他の方法が思いつかなかったんだ」
 つまりそれだけ、切羽詰っていたのである。ミッションは明日突然始まるかもしれない。そうなったら、彼と会う時間が取れるのはいつのことになるか。今を逃したらもうその機会はないと、ハレルヤに急かされるまま、ここまできてしまった。
「……何故、そこまで……」
 怪訝そうに揺れるグラハムの表情はもっともだと、刹那にも分かった。自分でも説明ができない、この気持ちはいったいなんなのだろうか。
「……分からない。でも、アンタに会いたかったんだ」
 本当の理由は、たぶん、それだけだ。首をかしげながら刹那が言うと、グラハムはギョッとしたように目を剥き、にわかに戸惑った様子を見せた。
「……会いたかった? 私と?」
「ああ」
「何故、と聞いても分からないのか……」
 はぁ、とグラハムはまた溜息をこぼしていた。
 しんとした空間が満ちる。そういえばBGMの一つもかかっていないことに、刹那は今更気がついた。
「少年、実際に私と会ってみた感想はどうだ?」
「えっ?」
「何か分かったことはないのかね?」
 気になり続けていた相手に会えてどう思ったか。グラハムの落ち着き払った様子と、彼に改めて指摘されたことで、刹那も徐々に冷静さを取り戻していった。自分の心の中とじっくり向き合う。
「──礼が言えてよかった。すっきりした」
 気がかりだった一つは、これで確かに解消できたのだ。しかも、懸念だったソレスタルビーイングのことは上手く伏せられてある。
「ふむ。他には?」
「他に……。そうだな、アンタの顔が見れてよかった。あと、話もできてよかった。あとは……やっぱり、会えて嬉しかった」
 こんな時間が持てることは二度とないだろうし、刹那は最初からこれが最後だと割り切っていた。ユニオン軍に限らず、世界と敵対する道を選んだのだ。だから、これ以上のこと──具体的には言えない──など考えもしなかった。
 次に再会する場所は戦場で、お互い敵同士。相手も分からず殺しあうかもしれない。でも、それが戦うことしかできない刹那の運命なのだと思っていた。


 赤裸々な告白をしたとは分かっていない刹那に反して、それらを聞かされたグラハムのほうは、頬を赤く染めて咳払いを一つした。
「そ、そうか……。なんだか身に余る好意をいただけているようだな……」
 ゴホン、とグラハムにしてみたら照れ隠しの咳払いを、刹那はそのまま受け取った。
「顔が赤いぞ? 熱でもあるんじゃないか?」
 咳もしているし、実は風邪でも引いていたのかと、刹那は焦った。みぞおちに一発叩き込んでしまったことを後悔し、労わるように赤い頬に指を伸ばしたら、グラハムの顔がまた一段と赤くなっていた。
「──いや、大丈夫だ。君は……、それで本当に無自覚なのか……?」
「なんのことだ?」
 熟した桃のようなピンク色の肌をなでていたのも、無意識のうちに行っていたことだった。刹那が首をかしげると、グラハムは大きな眼をさらに大きくして、信じられないという表情で凝視してくる。
「……なぁ、少年」
「刹那だ」
 ソレスタルビーイングのコードネームを打ち明けてしまったが、もう会うこともないだろうから構わないと思った。
「刹那か。私はグラハム・エーカーだ。刹那、君はすぐ帰るのかね?」
 ふいに尋ねられたそれに、刹那は一瞬、動きを止めた。服のポケットにしまわれている通信機の存在を思い出して現実に立ち返る。けれど、それはまだ沈黙を保ったままだ。急の任務が入ったとしても、刹那にはガンダムがあるし、どうにでもなるだろう。
「いや、大丈夫だ」
「そうか。なら、泊まっていかないか? 今日はもう遅い。明日、私が送っていくから、どうだ?」
「──えっ?」
 驚いた刹那は、今度こそぱたりとあらゆる動きを止めていた。──ここに、泊まっていく? グラハムの家で一晩を過ごす?
 それはつまり、明日の朝まで一緒にいられるということで、会うこと自体を恐れて行動に移せなかったくせに、まったく現金にも刹那の心の中は喜びの感情であふれていった。
作品名:Private 作家名:ハルコ