あなたに会えた喜びを
「さっきまで、しえみちゃんとかに祝ってもらってたんだろー?」
「ああ、はい、そうです」
祓魔塾の塾生たちが、雪男と燐の誕生を祝うパーティーを開いてくれ、それに参加していたのだ。
サプライズパーティーで、勝呂竜士に相談があると言われて行ってみると、塾生たちにクラッカーで出迎えられて、驚いた。
「京都の三人組はそのために冬休みに入ってんのに帰省を明日にしたんだろ」
シュラは軽い口調で言う。
「祝ってもらって、良かったな」
「はい」
雪男の顔には自然に笑みが浮かんだ。
さっきまでのパーティーの光景が頭によみがえっていた。
にぎやかで、温かくて、楽しかった。
「ありがたいことだと思っています」
「そーか」
シュラがやわらかく笑う。嬉しそうだ。自分が祝ってもらったわけでもないのに。
雪男は湯飲みをテーブルに置いた。
「……でも」
ふと、心に浮かんできたことが、いつのまにか口から出ていた。
「祝ってもらって良かったのかとも思います」
「はぁ?」
「僕が生まれてきたことは、祝福されることじゃないかもしれない」
自分はサタンの落胤だ。
サタンの炎は受け継がなかった。しかし、この先もずっとサタンの落胤である証拠が自分にあらわれないとは限らない。
だからこそ、毎日、検査を受けている。まわりもそう思っているということだろう。
こんなことは、サタンの炎を受け継いだ燐には話せない。
いや、本当は、だれにも話さないほうがいいのだ。
けれども、今、なぜか自分の口は動いていた。
「だから、ちょっと違和感がありました。本当に祝ってもらっていいんだろうかって」
自分と燐は生まれ落ちてすぐに処分される予定だった。
しかし、その処分を担当するはずだった藤本獅郎が、逆に、正十字騎士團上層部には嘘の報告をして秘密裏に雪男と燐を育てたのだ。
そのことは、つまり、自分と燐は生まれるまえから処分対象にされるような存在だと見なされていたということである。
自分は生まれるまえから罪を背負っている。
祝福されるような存在ではない。
「いいに決まってんだろ」
あっさりとシュラは言った。
「みんな、だれかに強制されたわけじゃなくて、祝いたくて祝ったんだ。おまえが生まれてきて良かったと思ってるから、祝ったんだ」
「……」
「アタシだってそうだ」
シュラの表情が真剣なものになる。
大きな眼が雪男をじっと見ている。
「アタシも、おまえが生まれてきて良かったって思ってる」
その言葉が胸に優しく降りてきて、少し不安になっていた心に寄り添ってくる。
ああ、と雪男は思う。
本当は、わかっていた。
シュラならきっと、こう言ってくれるだろうと、わかっていた。
わかっていたからこそ、他のだれにも話さないことを話した。
その言葉がほしくて、シュラにそう言ってほしくて、話した。
自分の眼のまえにいるのは、ほしい言葉をくれるひと。
温かくて優しいひと。
「……シュラさん。誕生日プレゼントがほしいんですが」
「なんだ?」
「僕は何度もあなたに好きだと言った。でも、あなたからは聞いたことがない」
ほしい言葉がもうひとつある。
「だから、聞かせてもらえませんか」
雪男は穏やかな声で頼んだ。
すると、シュラは大きな眼をますます大きくした。
作品名:あなたに会えた喜びを 作家名:hujio