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お姫様は夢を見る

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「僕も手伝うよ、ちょっと待ってて」

鎮まり切れない熱はまだ血管を駆け巡るけれど、僕は気付かぬ振りをして前を向いて、笑う。
だけど、誤魔化しきれないのは自身ではなくて、片割れのその人。
血なんか繋がっていないのに、僕より僕の事を理解していて、些細な変化にさえ気付いてしまう義兄。

「…晶馬」

何、と声には出せずに、ひゅうと吐息が苦しげに漏れて呻く。
強引に抱き寄せられた身体が硬直して熱が引き、現実に手繰り寄せられる。
先程、今最も近しい他人にこうされた時との差は歴然で。それだけが僕を貫いて離さない。

「どうしたの、冠葉」

こんな時、名前で呼ぶと少しだけ和らぐのを知っている。
だから、出来る限りの偽善を詰め込んで名を、呼ぶ。

「誰と会ってた」

「え、」

低い声は、静かに始まりを告げる。

「言え、晶馬」

冠葉の言葉は絶対だ。
僕は逆らう事もせずに、ゆったりと口を開く。

「荻野目、くん」

「そうか…やっぱりな」

答えに満足したのか僅かに抜かれた力に気管が緩み、いきなり酸素が飛び込んで来て思わず咽る。
そんな事にはお構いなしに、冠葉は僕の肩口に顔を埋めて深呼吸を繰り返した。

「冠、葉…?」

微動だにしない冠葉の存在は心臓を騒がせるには充分で、火照った身体の名残は微塵も残されていない。


「荻野目に抱かれた?」


頭の中で反響する声。何を言われたか一瞬分からなかった。

「何、言ってるんだよ…」

「違うのか?だって、お前から荻野目の匂いがするからてっきり」

「違うって!その…抱き締められただけ、だし…」

「ふーん。それでか」

首筋を舐め上げられて、全身の毛が居心地の悪さに弥立つ。
この兄の考える事は、昔からよく分からない。だから怖い。
今だって、何がそんなに面白いのか、笑う顔が思い描ける程には冠葉の声は弾んでいた。

「ちょ、冠葉擽ったいっ」

どうにかはぐらかそうと身を捩るけれど、それを許してくれる程冠葉は僕を赦してはいないのだ。
押しのけようと探る手首を軽く捻られれば、後は冠葉の思う壺。

「俺は、さ。別にお前が誰とどうなろうと構わないし、それこそ、いっそ荻野目と結婚でもしてやれば?って思うけど…」

「んっ、冠葉、そこは…っ」

何時の間にか首筋から胸元に唇を運んで、僕の反応を愉しんでいる。
制服越しに甘噛みされては、もどかしくて仕方がない。

「お前は俺からは逃げられないんだよ」

冠葉の声は凛として僕の胸に響く。
いつもいつも、僕を抱く時にはこうやって呪文の様に囁くのだ。
その真意は分からないけれど、僕は確かにその意味を知っている。

腕が解放されてほっとしたのも束の間、消えたその手はスカートをたくし上げて貧相な太腿を探る。
やんわりとした手付きは優しさに溢れているという虚像は、出来る事なら夢のままにしたかった。
それが出来ないのは、ひとえに冠葉の手が氷の様に冷たいから。

作品名:お姫様は夢を見る 作家名:arit