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GIFT

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 オレはハンナを探して、屋敷のなかをあちこち歩き回った。
 いつもなら、呼ばれもしないのに、オレの周りをうろうろしているハンナが、今日にかぎって見つからない。
 庭かな、とも思ったけど、今ここで庭に出て、入れちがいにハンナが屋敷にもどってきたらやだな、とも思った。
 「…クロード、ハンナのやつ見なかった?」
 ハンナがいない代わりに、今日はクロードのやつがずっと、オレの周りをうろうろしている気がする。
 「…ハンナが、何か?」
 「今朝、オレの枕元に置いてあった誕生日プレゼント。
あれを贈ってくれたのが誰なのか、聞いてみたいんだ」
 「旦那さまは、あれはハンナが贈ったとお考えなのですか?」
 「分からない、もしかしたらハンナかなぁ、と思っただけ」
 「もしかしたら、とおっしゃるわりには、すいぶん熱心に彼女をお探しになってらっしゃいますね。」
 「そ、そうかな?」
 「居間や書斎のような、旦那さまがふだんお使いになるお部屋はもちろん、ランドリーや貯蔵庫のようなバックヤードのほうにまで、足を運んでいらっしゃる」
 「…何でそんなことまで知ってるの、つけてたの?」
 「……」
 やっぱり、クロードのやつ、何かおかしい。
 オレの周りをうろうろして、どうするつもりなんだろう?
 「…クロード、オレに何か隠してない?」
 「……」
 黙ってると、かえってあやしいんだけどな。
 オレはクロードの、メタルフレームの眼鏡のあたりをじっと見つめた。
 初めて会ったときは、分からなかったんだけど、
 クロードの無表情は、実はいろんなバージョンがある。
 無表情は無表情でも、こいつわざと無表情にしようとしてるな、という時があって、
 そういう時はよく見ると、顔以外のどこかが、妙にそわそわしていることが多い。
 今も、後ろ手にまわした腕のあたりが妙にそわそわしている。
 オレはいったん、クロードの顔から目をそらして、
 まぁいいや、べつに、みたいなことを言いながら、やつの脇をすり抜けた。
 そして
 「そういえば、セバスチャンって今、何してるわけ?」
 この場とぜんぜん関係のない質問を、クロードに投げかける。
 「…セバスチャン?」
 クロードが一瞬、何のことやら、という顔をする、そのすきにやつの後ろをのぞき込んだ。
 後ろ手にまわしたクロードの手のなかに、何かがあった。
 「みーつけたッ」
 しまった、という顔をクロードが一瞬だけした。すぐに元の、無表情にもどったけど。
 「なあに、それ?」
 「……」
 クロードは、オレと眼を合わせようとしない。もしかして緊張してる…?、まさか。
 「クロード、おまえが手に持っているの、何?」
 「……」
 「…もしかして、誕生日プレゼントとかいうやつ?」
 「……」
 ちょっと、ダイレクトに聞きすぎたかな。
 でも、オレだって本当はけっこう緊張してるんだけどな…。
 「……」
 「……」
 やんわり聞いても、ダイレクトに聞いても、返事がないのでオレのほうでも言葉につまってしまった。
 もともと、そんなにしゃべるのが得意なほうじゃないし。
 困ったな…。
 そんなふうに思ってたら、
 「旦那さま…」
 やっと、クロードの口から言葉が出てきた。
 「…何をお贈りすればよいのか、分からなかったもので」
 すごく、迷った末に、オレのほうに赤い包装紙に包まれた小さな箱をつき出した。
 一瞬、怒ってるのかなぁとも思ったけど、そうじゃなかった。
 …クロードの手がほんのすこし、わずかだけどふるえてた。
 「受け取っていただけますか?」
 「…うん」
 クロードの緊張が伝わってきて、オレのほうも一瞬、言葉につまる。
 赤い箱を受け取ろうとさしだすオレの手が、ふるえた。
 ふるえは止まらない、
 オレはクロードの顔がまともに見れなくて、うつむいた。頬が熱い。
 今のオレ、どんな顔してるんだろう…。
 クロードの手もとだけをかろうじて見ながら、何とか赤い箱を受け取る。
 手のひらにのるくらいの、小さな赤い箱。
 受け取ってみると、思ったよりもずっしりと重かった。
 「初めて会った11歳のときから、あなたが欲しがるのは形にならないものばかりだった」
 …そうだっけ?そうかもしれない。
 「だから、受け取ってもらえるかどうか、よく分からなかった」
 よく見ると、受け取ったプレゼントの赤い包装紙のはしっこが、少しゆがんですり切れてる。
 今日、一日ずっとにぎりしめていて、こんなふうによれよれになっちゃったんだろうか?
 朝から、オレの周りをうろうろして、ずっと?
 オレにこの包みを渡そうかどうか、迷ってるクロード。想像すると、なんか胸が痛かった。
 …変わったな、と思った。
 ずっと前、オレがまだ生きてて、ジジイの息子のフリしてたとき、ヤツはこう言ったんだ。
 「人間にとって約束は破るもの、法とは犯すもの、成功は奪うもの、違うか?」
 だから人間なんて信用するなって言いたかったんだろうけど。ずいぶんな言いぐさだよな。
 オレが生きてるころはそんなだったのに、おまえ、彼岸へ来てどうしちゃったの?
 そんな風に、オレが物思いにふけっていたら…、
 「…旦那さま、開けてみようとは、思わないんですか?」
 「えッ、ああ、そういえばそうだった」
 なんかもう、プレゼントをもらったことがうれしくて、中身のことをすっかり忘れてた。
 こういうことするから、『何が欲しいのかぜんぜん分からない』とか言われちゃうのかなぁ…。
 そういえば、まだちゃんとお礼も言ってないし。
 プレゼントをもらって、うれしいんだけど、正直うれしいんだけど、でも、なんか中身を開けるのが怖いんだ。
 「旦那さま…」
 「あっ、はい…」
 うながされて、ドキドキしながら赤い包装紙をはがす。中から現れた白い小さな箱のふたをそっと開けてみる。
 「わぁ…」
 中に入ってたのは、本物そっくりの青い蝶の飾りだった。
 薄い羽が、光を受けてきらきらと輝く。
 本物よりもずっしりとした重みのあるところが、作り物のリアルだった。
 「以前、旦那さまがつかまえた青い蝶が亡くなったとき、ずい分がっかりされてましたので…。
 旦那さまに、永遠の蝶を、と」
 そんなこと、覚えていてくれたんだ。
 『初めて会った11歳のときから、あなたが欲しがるのは形にならないものばかりだった』
 『初めて会ったときから…』
 その言葉が何よりもうれしかった。
 オレだけがずっと、覚えてるんじゃないかって思ってたから。
 クロードも覚えててくれたんだ。
 どんなプレゼントより、そのひと言がうれしかった。
 「ありがとう、クロード」
 言葉は、意外と素直にあふれてきた。
 クロードの、無表情なはずの眼が、少しだけ見開かれた気がした。ほんの一瞬だけど。
 よく見ると、無表情なようでもどこかにサインを残してる。
 表情に出ない、言葉にもならない、気持ちを伝える何か。
 今日は気づかなくて、うろうろさせちゃったけど、そのうちもっと早く気づけたらいい。
 「…ねぇ」
 「…はい」
 「もっと近くに来て」
 「…」
 近づいたクロードの、リボンタイを引きよせる。息がかかるくらいに近く。
作品名:GIFT 作家名:サヤカ様